フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第5話>
<第5話>
「お疲れ様でーす」
大通り沿いのコンビニの前で下ろしてもらう。
一歩外に出ると、まだ10月なのに既に冬の匂いが混ざり始めた風が、頬を撫でる。
始発が動き始めたばかりの町は、寒い。遠ざかっていく冨永さんのワゴンを視界の端に捉えながらゆっくり歩きだす。
コンビニに寄ろうとして、思い直してやめる。大人2人分のお弁当を買うより、自炊したほうが節約になる。
今日も21時から待機してたのに、短いコースの1本で終わってるから、キッチンに立つ体力はあった。
新宿駅から地下鉄で6つめ。駅から12分も歩くアパートの周辺は、コンビニと夜の20時までしか営業しないちっちゃなスーパーがあるぐらいで静か。
5センチヒールのかかとが立てるコンコンという音が、冷たい朝の空気の中よく響く。大通りから狭い路地に入り、200メートルほど歩けば家が見えてくる。2階建てアパートの角部屋が、私と聡の住まいだ。
窓の内側から蛍光灯が煌々と光を放っているのに驚いた。時刻はAM4;50。さすがに寝てると思ってた。まさか一晩中ずっとゲームをやってたんだろうか。
「へー、マジ? じゃあ、次、そいつ倒しにいこうよ。そんなつえーの?」
玄関のドアを開けると、笑い混じりの聡の声が聞こえてくる。
ゲームをやらない私には全然面白さがわからないけれど、聡が夢中になっているのはパソコンのネット回線を使ったオンラインゲーム。ゲームの中で仲間を作り、みんなでモンスターを倒しに行ったり、他のチームと戦争したりするらしい。
ヘッドセットをつければ、遊びながらボイスチャットも出来るから、ゲームしてる時の聡は、いつもリアルでは一度も会ったことのないネット上の友だちとしゃべっている。生活を共にしている私とよりも、ゲームの仲間と話す時間のほうが長い。
「ただいま」
丸まった背中に声をかけると、そこで初めて私が帰ってきたことに気づいたのか、振り向いて笑顔を固め、バツが悪そうな表情になる。
バックの持ち手を握る手が震える。私がブスブスと罵られ、髪の毛を掴まれ、すっかりすり減ってしまったプライドをさらにズタズタに踏みにじられていた時、聡は仕事も探さずにゲームばっかりで、ボイスチャットしながらヘラヘラ笑ってて……。
「ご飯作るね」
煮えたぎる感情をそのままぶつけてもいいことはない。
ワンクッション置いてから聡と話そう。
無表情で放った言葉に聡はホッと頬を緩め、ようやくおかえりを言った後、すぐにゲームの世界に戻っていく。
私はバッグを片づけ部屋着に着替えてからキッチンに立つ。
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