フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第3話>
<3回目>
「奈々子せんぱーい、大丈夫ですかぁ?」
ようやく席に戻ったら隣の有加が話しかけてくる。
ここで木崎に見つかるとまた面倒くさいのでごく抑えた声。でも、語尾はだらしなく伸ばされているのが、いつも通り。
オフィスで浮きまくっている華やかにウェーブを描いた茶色いロングヘアも、ストーンやラメでたっぷり輝きを施したネイルアートの爪も、いくら木崎にお小言をくらったってやめない有加。顔は十人並みだけど、唇だけはぷるんっと突き出ていて色っぽい。
全体的にぽちゃぽちゃしている有加は、胸もお尻もぷるるるんっと張り出して、地味な紺色の制服を中から突き破りそうなほど。
年中発情期で社内外問わず若い男を誘惑するのに余念がない女だから、女性ホルモンが有り余ってるんだろう。
「大丈夫、別に気にしてない」
「ほんとですかぁー? 腹立たないんですか、あんなに言われて」
「平気だってば。あの人もあれがストレス解消なんだろうから、親切で付き合ってやってんだと思わなきゃ」
「さすが奈々子せんぱーい。オットナー」
この子と話してると、褒められた時でさえイラつく。表に出さないようにはしてるけど。
ひとつ下で、先輩先輩とやたらあたしを慕ってくるこの子も女の典型だ。
まさしくファッションと美容と噂話と芸能人しか頭に入ってないタイプで、有加の場合は、その4つに男がプラスされる。
年中合コンがどーたら、この前友だちに紹介してもらった人がどーたらとそんな話ばっかり。男に買ってもらったアクセサリーや時計(ことごとく安物ばっか)を嬉しそうに見せつけてくるのもウザい。
男にモノを買ってもらうのは大いに結構、だけどそれを自慢するのは下品以外の何物でもないのに。
木崎も有加も、女なんて一皮剥けばみんな同じ。
みんな嫌い。
「それでぇ? 昨夜は彼氏とデートだったんですかぁ」
「まぁね」
「いいなぁ、いつ結婚するんですかー?」
木崎がこっちを見ているのに気付いた有加がおっと、と声をひそめ、じゃあまた後でと小さく頭を上下させる。仕方なく会釈を返す。
彼氏とデート、それが無難だろう。
本当は昨夜もドリームガールで、24時で受付終了のはずが、24時から3時間コースのお客さんが入ってしまい、家についたのは4時前で、それからお風呂に入って寝たら当然の睡眠不足で、つい寝過ごした、……なんて言えるわけないんだから。
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