フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第27話>
<27回目>
「そうやって、憶測だけで人のことをあれこれ言うのってよくないんじゃないかな? あなた、冨永さんの何を知ってるわけでもないでしょう」
「そ、そうですね」
「そりゃあこういう業界だから、いろんな人が働いてるわよ。でもそれは、あたしたちだって一緒じゃない? たしかにあたしも彼、変わってるなとは思うけど、だからって犯罪者扱いはどうかと思うな」
「ごめんなさい……」
さっきまでのテンションはどこへやら、真穂ちゃんが今にも泣きそうな声で言った。案外素直らしい。
若い子のしおらしい姿にはっとしたはるかさんが語気を緩め、気まずそうに下を見る。
「こっちこそ、ごめんなさい。言い過ぎた。今のことは忘れて」
「い、いえ、忘れません!! あたし、その、空気読めないバカだから。思ったことすぐ口にしちゃって怒られたりとかするし……。すごく、反省しました。ごめんなさい」
「ううん、いいの。あたしもほんと、ごめんね」
身を乗り出していたはるかさんがおずおずとシートに腰を沈め、真穂ちゃんも姿勢を戻してお行儀よく手を膝の上に載せ、俯いた。重たい沈黙が車内に立ち込める。
びっくりした。はるかさん、他の子とは一切口を聞かないドライバーとも必要以上のやり取りはしない。そういうタイプだって思ってたのに、まさか冨永さんを庇うなんて。
もしや冨永さんに惚れてるとか?
いやあの冨永さんだ、365日ホームレスみたいな格好で仕事はデリヘルのドライバーの推定年齢30代後半、惚れる要素がどこにある??? でも、あのムキになり方は怪し過ぎる。
気まずい車内でそうやって頭を働かせていると、クロックスが速足で近づいてきて、運転席側のドアが開いた。真穂ちゃんが隣で小さく震えたような気がした。
「晶子さん、お仕事です」
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