フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第46話>

2014-08-18 20:00 配信 / 閲覧回数 : 931 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Iori フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<46回目>

 

佳輝くんは、たしかに、まだたったの25歳で未熟で、親になる苦しさも喜びも知らない。

 

でも、ここまで言ってくれるこの人なら、風俗嬢のあたしを自分なりに受け入れてくれる佳輝くんなら、野々花のことだって受け入れてくれるはずだ。

 

疑ってばっかりじゃきりがない。たとえ人から馬鹿だと思われてもいい。信じたいものは、信じなきゃ。

 

「……うちの野々花、人見知り激しいよ」

 

「俺だって、簡単に考えてるわけじゃないって。簡単じゃないことをやってるから、伊織ちゃんを好きになったんだよ。野々花ちゃんのいい父親になれるかどうかなんてわかんないけど、やってみなきゃわかんねぇだろ」

 

「佳輝くん、あたし風俗辞める」

 

脈略がなさ過ぎだっただろうか?

 

佳輝くんが「え?」と口を開ける。

 

今ならあたしは、風俗で得る麻薬のような喜びを手放せる。

 

今じゃなきゃ、駄目だ。

 

1カ月後とか1年後とかだったら、もし佳輝くんの気持ちが変わらなくたって、無理なんだ。

 

「風俗辞めてアパート引き払って、実家に帰る。でも、親に頼り切りは嫌だから、ちゃんと頑張って、もっとお給料もらえるようになって。自分の選んだ道で、自分の好きな道で、食べていけるようにする。だから、あたしと……」

 

「ちょっと待って。それ、実家に帰るんじゃなくって、俺と暮らすんじゃ駄目なの?」

 

今度はあたしの口が「え?」と開く。

 

佳輝くんの瞳からは、憐れみが消えている。

「俺も給料すげー安いけど。でも、大人2人で働けば、なんとかなるだろ? 伊織ちゃんは、もう1人で頑張らなくていいんだよ。これからは1人じゃなくて2人なんだから」

 

抱き合いたかったけれど、佳輝くんはギターを持ってたし、人目もあったので、そっと片手を差し出した。

 

握ってくれる確かな体温に、すがりもせず甘えもせず、支え合って生きていくのだと思った。

 

野々花、あたしは、もう、あなたの存在を理由にしないよ。一歩踏み出す勇気が持てないのを、あなたのせいにしないよ。

 

いつかあなたがあなたの手で自分の幸せを掴めるように、ママもちゃんと幸せになるから。

 

野々花。

 

生まれてきてくれてありがとう。

 

フェイク・ラブ 第四章~Iori~<完>

 




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