フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第46話>
<46回目>
佳輝くんは、たしかに、まだたったの25歳で未熟で、親になる苦しさも喜びも知らない。
でも、ここまで言ってくれるこの人なら、風俗嬢のあたしを自分なりに受け入れてくれる佳輝くんなら、野々花のことだって受け入れてくれるはずだ。
疑ってばっかりじゃきりがない。たとえ人から馬鹿だと思われてもいい。信じたいものは、信じなきゃ。
「……うちの野々花、人見知り激しいよ」
「俺だって、簡単に考えてるわけじゃないって。簡単じゃないことをやってるから、伊織ちゃんを好きになったんだよ。野々花ちゃんのいい父親になれるかどうかなんてわかんないけど、やってみなきゃわかんねぇだろ」
「佳輝くん、あたし風俗辞める」
脈略がなさ過ぎだっただろうか?
佳輝くんが「え?」と口を開ける。
今ならあたしは、風俗で得る麻薬のような喜びを手放せる。
今じゃなきゃ、駄目だ。
1カ月後とか1年後とかだったら、もし佳輝くんの気持ちが変わらなくたって、無理なんだ。
「風俗辞めてアパート引き払って、実家に帰る。でも、親に頼り切りは嫌だから、ちゃんと頑張って、もっとお給料もらえるようになって。自分の選んだ道で、自分の好きな道で、食べていけるようにする。だから、あたしと……」
「ちょっと待って。それ、実家に帰るんじゃなくって、俺と暮らすんじゃ駄目なの?」
今度はあたしの口が「え?」と開く。
佳輝くんの瞳からは、憐れみが消えている。
「俺も給料すげー安いけど。でも、大人2人で働けば、なんとかなるだろ? 伊織ちゃんは、もう1人で頑張らなくていいんだよ。これからは1人じゃなくて2人なんだから」
抱き合いたかったけれど、佳輝くんはギターを持ってたし、人目もあったので、そっと片手を差し出した。
握ってくれる確かな体温に、すがりもせず甘えもせず、支え合って生きていくのだと思った。
野々花、あたしは、もう、あなたの存在を理由にしないよ。一歩踏み出す勇気が持てないのを、あなたのせいにしないよ。
いつかあなたがあなたの手で自分の幸せを掴めるように、ママもちゃんと幸せになるから。
野々花。
生まれてきてくれてありがとう。
フェイク・ラブ 第四章~Iori~<完>
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