フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第7話>
<第7回目>
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。てか、なんて顔してんですか」
サラリーマンたちは冨永さんに睨まれてビビったのか、慌ててこちらから視線を逸らしそそくさ速足になった。
背が高くて肩幅が広い冨永さんが怒ると、なかなか迫力がある。
「だって腹立ちませんか、ああいうの」
「立つけど。どーせ、あのホテルから出てきたってことはあの人も風俗嬢なんだ、でもオバサンだー、あのトシでよくやるなーとか思われてんでしょ」
「そんなことありませんよ。きれいだなって見てたんです」
「きれいだった、でしょ」
「過去形じゃありません。今でもはるかさんはきれいです」
言ってからしまったという顔になって、足もとに視線を落とす。
ホテルの看板を照らすライトが冨永さんの赤い頬を照らし、あたしも恥ずかしくなって、でも気まずくなりたくないから、わざとでかい声で、もー何言ってんのよと、広い背中をばしんと叩いた。
叩いた時に気づいたけど、あの頃より肉がついたかもしれない。
過ぎた時間の重みを感じて、切なさがじんわり体の真ん中に広がる。
ワゴンには誰も乗ってなかった。冨永さんと二人きりになるのはたぶん3週間ぶりくらい。
嬉しいけれど、お腹の皮が突っ張りそうな気分だった。冨永さんが店にあたしと合流し、もらったお金を確認した旨の電話をする。
「新宿戻りですか?」
「いえ、今品川で入ってる人がいて、アウトが4時なんで。しばらくこのへんで待機します」
「入ってるの、誰?」
「美樹さんですよ」
鼻の横のシワの深さから察するに、歳の頃は26〜27歳ぐらい。でも、全体の雰囲気はもっと幼い美樹さんの顔を思い浮かべる。あたしもまだこの店に入ってきて3カ月ぐらいだから、名前と顔の一致しない人がたくさんいるけれど、美樹さんはたぶん間違えていない。
あの、幸薄そうな感じの人だろう。
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