フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第7話>

2014-08-25 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,047 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Rin フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<第7回目>

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様です。てか、なんて顔してんですか」

 

サラリーマンたちは冨永さんに睨まれてビビったのか、慌ててこちらから視線を逸らしそそくさ速足になった。

背が高くて肩幅が広い冨永さんが怒ると、なかなか迫力がある。

 

「だって腹立ちませんか、ああいうの」

 

「立つけど。どーせ、あのホテルから出てきたってことはあの人も風俗嬢なんだ、でもオバサンだー、あのトシでよくやるなーとか思われてんでしょ」

 

「そんなことありませんよ。きれいだなって見てたんです」

 

「きれいだった、でしょ」

 

「過去形じゃありません。今でもはるかさんはきれいです」

 

言ってからしまったという顔になって、足もとに視線を落とす。

 

ホテルの看板を照らすライトが冨永さんの赤い頬を照らし、あたしも恥ずかしくなって、でも気まずくなりたくないから、わざとでかい声で、もー何言ってんのよと、広い背中をばしんと叩いた。

 

叩いた時に気づいたけど、あの頃より肉がついたかもしれない。

 

過ぎた時間の重みを感じて、切なさがじんわり体の真ん中に広がる。

 

ワゴンには誰も乗ってなかった。冨永さんと二人きりになるのはたぶん3週間ぶりくらい。

 

嬉しいけれど、お腹の皮が突っ張りそうな気分だった。冨永さんが店にあたしと合流し、もらったお金を確認した旨の電話をする。

 

「新宿戻りですか?」

 

「いえ、今品川で入ってる人がいて、アウトが4時なんで。しばらくこのへんで待機します」

 

「入ってるの、誰?」

 

「美樹さんですよ」

 

鼻の横のシワの深さから察するに、歳の頃は26〜27歳ぐらい。でも、全体の雰囲気はもっと幼い美樹さんの顔を思い浮かべる。あたしもまだこの店に入ってきて3カ月ぐらいだから、名前と顔の一致しない人がたくさんいるけれど、美樹さんはたぶん間違えていない。

 

あの、幸薄そうな感じの人だろう。

 

 

 

 




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