【連載小説】Rizu〜風俗嬢の恋〜<第14話>
<第13話より・・・・>
おじさんが乾いた手であたしの頭を撫でた。髪の毛がツヤツヤだね、と褒めてくれた。
「名前、なんていうの?」
「りさです」
「そうじゃなくて、ほんとの名前」
<第14話>
風俗で働く女の子が何のために源氏名を使うのかわかってないわけじゃないだろうに、聞いてくる。
何のためかわかっていながら答えた。
「理寿です。理科の理に、ことぶきの寿。それで“りず”」
「可愛い名前だね。わたしは塚原。今日は何時までお仕事なの?」
「閉店まで働いて、終電で帰ります」
「住んでるのはどこ?」
「町田」
おじさん、いや塚原さんの手が頭から胸に移った。
欲望は感じられなくて、思春期の娘の成長を確かめるような触り方だった。
「私も町田だよ。駅からちょっと離れたマンションに住んでる」
「近くなんですね」
「うん。一緒に帰らない?相模原の改札口で待ち合わせようよ」
きっと「帰る」だけじゃない。ほんの一瞬迷った。
「遅くなって、平気なんですか。奥さん」
「私は独り身だよ。遅くに結婚したんだが、三年で離婚してね」
「後でその話、じっくり聞かせて下さい」
ボックス席の隅っこに置いたアラームが勢いよく鳴って、プレイタイムの終了を告げた。
塚原さんを見送る時、触れるだけのキスをした。
その後三人お客さんについて、十二時がやってきた。
風営法で、こういうお店は夜の十二時までしか営業できないと決まってるらしい。
「はい、お疲れさん」
カウンターの前で富樫さんから今日の稼ぎを受け取る。私大の高い学費と家賃を負担してもらってる上、生活費までお母さんに払ってもらうのが申し訳なくて始めた夜の仕事。
食べていければ十分なのに、いつのまにかそれを遥かに超える貯金が出来ていた。
十八歳にとっては、一生暮らしていけそうな額。使い道なんてわからないまま、さおりさんみたいに服やアクセサリーやブランド品を買い占めようとも思えないまま、お金は日々降り積もっていく。
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