ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第2話>
<第二話>
それからひと月と経たない後のことだ。季節はすっかり夏に移り変わっていた。
柊太郎は、新宿御苑の大木戸門近くを新宿駅方面に向かって歩いていた。
そろそろ午後八時を回ろうかという時間帯。柊太郎はデニムのポケットに両手を突っ込み、少し前のめりになって進んでいた。
御苑を囲んで道なりに続く高く長い塀はその脇を歩く者を延々と威嚇するようだったが、細い道を反対側に渡ってしまえば、カフェやダイニングバーの灯りが彼らをあたたかく迎えるように優しげに連なっている。
するべきことを終わらせた今、来るときにも見ていたはずのそれらの風景を、柊太郎はやっと少し落ち着いて眺める余裕ができた。
するべきことというのは、その近辺にあった店のひとつに入って、そこのアルバイト店員として働けるかどうか審査してもらうことだった。つまり面接である。
バスケ部は結局、翌日部室に退部届を持っていって正式に辞めた。優秀な選手であり、品行も悪くなかった柊太郎はその場で先輩たちに止められたし、その後も何度か考え直すよう説得された。それでも考えは変わらなかった。
ぽっかりと空いてしまった、それまでバスケに費やしていた一日のうち数時間を、柊太郎は最初何をするでもなく持て余した。
週何度か、それまでも週に何日か入っていたコンビニのバイトには行ったが、講義は面倒になって休んだりもした。ただ部屋でぼんやりする日々もあった。注いでいた熱意をどこに向けていいかわからなかった。燃え尽き症候群というのはこういう状態のことをいうのだろう。
そんなとき、ある授業の際、大講堂で後ろの席に座っていた女子生徒の会話を聞いた。
「彼氏と別れてからなんかヒマになっちゃったからさぁ、ぼーっとしてても思い出してつらくなるだけだし、思いっきりバイトのシフト入れちゃった。だから私、来月はマジお金持ちなんだよね」
なるほど、その発想はなかったな。その場でぽんと手を打ちたくなる。たしかに鬱々と無為に時間を過ごしているよりは、体を動かして金を稼いだほうが精神的にもよさそうだ。次に何かやりたいことが見つかったとき、それに金がかからないとも限らない。
進級して二十歳になったから、できる仕事の幅も以前より広がっているはずだ。(いっそ今のコンビニバイトをやめて、何か新しいアルバイトでもしてみようか)
柊太郎は授業が終わると学食に直行し、コーヒーを飲みながらスマートフォンでアルバイト募集サイトにアクセスした。勤務地や時給などの希望条件を入れて検索をすると、すぐに何件もの候補がヒットした。
先ほど面接してもらったのは、その中でもいちばん条件がよかったところだった。昼から深夜までダイニングバーとして営業する店で、よくあるチェーン店の居酒屋やファーストフード店などよりかなり時給がいい。新宿という立地も便利そうだった。
しかし、時給がいいだけあってアルバイト希望者はかなり多いようだった。面接を担当した男性店長は大学のことや現在の生活状況、これまでのアルバイト経験などを尋ねた後、「採用の場合は月末までに連絡します」と事務的な口調で話を終わらせた。前向きとは感じられない反応だった。
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