ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第3話>
<第3話>
駅に行くにはそのまま直進すればよかった。
しかし柊太郎は進んでいた道を右に曲がり、狭い路地に入った。
変に神経質なところのある柊太郎は、上京して一年以上になる今も、まだ完全に東京に馴染みきれていない。特に新宿のような大都市では、変に気遅れすることが多かった。
低層ビルが雑然と並んだ適度に汚い路地に何となく安心感を覚える。あちこちに出された看板から察するに、飲食店がメインの通りらしい。
(まぁ、もしかしたら近道になるかもしれないし)
道を曲がってしまったことに対して、誰に責められたわけでもないのに心の中で勝手に言い訳しながら歩き続ける。
一分もしないうちに気が付いた。
ここは、それまで歩いていた場所とは違う。
(まさかここが……)
新宿二丁目。
やってしまった。
新宿二丁目というところがゲイの街だという知識はあった。だから東京に出てきた時、そこには近づかないようにしようと決めていた。
といっても、はっきりそう意識したわけではなく、ぼんやりと考えた、という程度だが。
それが、まさかこんなところにあったとは。新宿御苑と新宿二丁目が隣接しているなんて知らなかった。
知らなかったのはこの近辺で、というより東京という場所で遊ぶことがあまりなかったせいだろう。彼女もいなければ友達も多いわけではない柊太郎は、休日といえば大抵バイトをするか、家で映画を見たりゲームをしたりして過ごしていた。
近づきたくなかったのはゲイを嫌っていたからではない。むしろ逆だ。自分にはその気(け)があるのではないかと、ずっと前からひそかに思っていた。
高校時代、柊太郎は同じバスケ部の同級生に対して、たぶん友情以上の感情を抱いていた。「たぶん」というのは、自分でもその感情の正体が何なのかよくわからなかったからだ。
唇の形や、汗を拭う仕草や、できたばかりの彼女について話すときの目の輝きが妙に気になることを友情と呼んでいいのならそれは友情だったが、きっとそうではないだろう。
その感情に深入りしたら、彼も自分も不幸になるであろうことは誰に言われずともわかった。
だから気持ちを抑え続けて、そして卒業した。
本来は持ってはいけないもの。持っているのを認めてしまったら、きっと面倒なことになるもの。女の子を好きになれないわけじゃないんだから、わざわざ飛び込んでいく必要はない。知らないままでいられるなら、きっとそのほうがいいのだ。
渡ったばかりの横断歩道でくるりと踵を返し、柊太郎はもと来た道を戻ろうとした。
そのとき、一枚のポスターが目に入った。
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