ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第4話>
<第4話>
ポスターには、擦り切れたジーンズに上半身裸という格好の、整った顔立ちの男が写っていた。
ほとんど白くなるまで脱色したベリーショートヘアに、贅肉を完璧に削ぎ落とした鍛え抜いた体をしていて、その肉体を誇示するようなポーズをとっている。
だが、柊太郎が何よりも惹かれたのは鋭い眼光だった。写真だというのに実際にこちらを睨みつけているような、規格外といいたくなるほどの強さだ。
強烈な眼光を主旋律に、男のすべての要素は絶妙に共鳴し合い、柊太郎のもとに抗いがたい色気として届いた。
男の頭上にあたる部分には、殴り書きのようなフォントで「booty gangstrippers」と書かれている。
行っていけない、見つめてはいけないという警告が脳内で響く。しかし柊太郎の足は勝手に進んでしまった。ポスターとの距離が縮まるにつれ、鼓動が大きく、早くなるような気がする。
ポスターが貼られた建物の入り口は自動ドアになっていたが、ガラス張りではなかったので奥がどうなっているのか窺うことはできない。柊太郎は建物の前に着き、その場に立ち尽くした。中に何があるのかまったくわからない状態で踏み込むことには、さすがに抵抗を感じる。
ドアのすぐ横には、真鍮の地に金抜きの字で「T/C Show & Lounge」と書かれた札が嵌められていた。どうやらこの店か何かの名前のようだ。だとしたら「booty gang strippers」というのは何を意味するのだろう。
突然、自動ドアが開いた。同時に奥からズン、ズンと低音のリズムがどろりとした液体のように流れ出してくる。誰かが出てくるのかと柊太郎は一歩退いた。しかし、そこには誰もいなかった、どうやら自分のちょっとした動きがセンサーにとらえられてしまったようだ。
そのもう少し奥には人がいた。
「……えっ」
思わず出た声が、他人のもののように聞こえる。
自動ドアの向こうは細い通路になっていて、そのつきあたりに、いたのだ。今、ポスターで見つめていたその男が、そのままの格好で。
男は受付のような場所で、そのカウンターの内側にいるスタッフらしき人物と何か話していた。写真で受けた印象より背が高い。
ドアはなかなか閉まらなかった。いや、閉まらないと思ったのは錯覚……あるいは言い訳だったかもしれない
吸い寄せられるようにして柊太郎が中に入るとドアは背後で閉まり、周囲を包み込む音は街の雑踏から低音の四つ打ちを刻む電子音楽に変わった。
ポスターの男は柊太郎を一瞥すると、すぐにその場を去って奥に入っていった。
後に残った受付の男が、柊太郎を値踏みするように見つめる。
「あんた、ここがどういうところかわからないで入ってきたでしょ」
20代中盤ほどと思しき小柄な男は、すぐに見抜いた。そんなにおっかなびっくりして見えたのだろうか。
男は明らかに、柊太郎をよそ者として捉える表情をしていた。
「……はい。目の前でドアが開いたんで、何となく、どういうところか好奇心で入ってしまいました」
そこはごく小さな嘘をついたが、
「ここはどういうところなんですか」
格好をつけるつもりも必要もなかったので、素直に尋ねる。
さりげなく周囲を見渡すと、受付のすぐ横は立ち飲みできるバースペースになっていた。
さらにその奥には、今いる場所からはよく見えなかったが、いくつもテーブルの並んだ部屋がある。前方には両側に大きなスピーカーが設置されたステージがあった。いくつかのテーブルにはすでに客が座っている。
小柄な男は困ったような、嘲笑うような溜息を小さくひとつ吐くと、答えた。
「メンズストリップ」
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