ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第7話>
<第7回>
柾はこれまでの誰とも違っていた。
ただ上手というのではない。「違う」としかいえないほどの圧倒的な差だった。
ひとつ前に踊った男も上手かったが、柾には及ばなかった。体の芯のしなやかさと強靭さがまるで別物だ。
ステージ全体を飲みこみそうなほどダイナミックな動きも、手先や足先だけの細やかな動きも、芯から同等に力と神経が伸びていて、同等に強烈な迫力がある。
それでいてそこにあるのは威圧感だけではなく、こちらを誘うような色っぽさも帯びていた。
柾の背が高いこともダンスの華となっていた。長年のバスケ経験で、柊太郎は相手の立ち姿を見ればどのぐらいの身長か大体見当をつけられる。柾はおそらく190センチ近いだろう。手足も惚れ惚れするほど長い。
柾のダンスが終わってステージが暗くなると、体からすぅっと力が抜けていくのがわかった。それでやっと、自分は異様に集中して見入っていたのだと気づく。
急な緊張と弛緩に何とはなしに疲れを感じ、テーブルに置いたままだった薄いオレンジジュースを呷った。オレンジ風味としかいえないほとんど水のそれを、喉の奥に強いて流し込む。
突然、フロア側の照明が明るくなった。今までこちら側はずっと暗かったからか、一瞬眩暈を覚える。
焚きつけるような早いビートの音楽がこれまでよりも大きな音量で始まり、舞台からこれまでに登場したダンサーたちが現われてフロアに降りてくる。皆、ダンスが終わった時と同じTバックショーツだけの姿だ。最後に出てきた柾もそうだった。
ダンサーたちはそれぞれ客に近づいて、体をすりつけるような距離で背中や腰をくねらせる。客から体を撫でられたり、逆に自分から抱きついたりするダンサーもいる。
柊太郎は呆然とその様子を眺めた。どうやらこれがプライベートダンスタイムというやつらしい。
抜け出そうと思ったが、体が動かない。恐怖を感じたからでも、嫌悪感を覚えたからでもなく、柾から目が離せなかったからだ。
柾はあちこちの客席を渡り歩き、行った先々でまだ汗ばんでいる体を見せつけていた。そんな様さえ洗練されている。
そして、信じられないことが起こった。
柾がこちらを見た。柊太郎の視線に気付いたのか、それとも他に理由があったのかはわからない。
二人の視線が交錯する。
図らずして目を合わせてしまった柊太郎はたじろぐ。強い眼光で、体の内側の一部が灼け焦げてしまったように感じた。柾は口の端でにっと笑うと、確実に仕留められるとわかっている手負いの獲物に対するように、悠々と柊太郎に近づいてきた。
長い脚が一歩、また一歩と二人の間を詰める。
柊太郎の前に来ても、柾はテーブル席でしたように踊ったりはしなかった。バーカウンターの椅子は高かったものの、座ったままでは柊太郎の頭の位置は柾の胸のあたりだった。
柊太郎は立ち上がることもできず、見下されるままになっていた。
自分から仰ぎ見ることさえできない。ずっと下を向いて固まっていた。
俯いていると、ショーツの「その部分」が否が応にも目に入ってしまった。薄手だから、明るい中では大まかな形もわかる。
「お前、こういうところ初めて?」
声を掛けられて、やっと上を向く。強いライトとともに、高いところから柾の顔が目に飛び込んできた。
「はは、おい、そんなに緊張するなって」
大きな手が柊太郎の頭を撫でる。
人から頭を撫でられるなんて、成長期に背がぐんぐん伸び始めてからはありえないことだった。その手から電流を流されたように、柊太郎は飛び上がって立った。もう何も考えられなかった。
柊太郎は、逃げ出した。
そのまま一気に走って、テーブルの並んだフロアを出た。バースペースを抜け、受付の男に声を掛けることもせず、自動ドアが開くのをもどかしく待って外に飛び出した。
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