ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第8話>
<第8話>
翌日、柊太郎は授業が終わると学食のカフェで少し時間を潰し、再び新宿二丁目に足を運んだ。
初めての場所で混乱したとはいえ、いきなり飛び出してしまったことを詫びたかった。わざわざ「ノンケなら別の日にしたほうがいい」と忠告してくれた受付の男と、それから、柾に。
あれから柊太郎は新宿の街をめちゃくちゃに歩いて駅に着き、そこから私鉄に乗って二十五分ほどのところにある自宅に帰り着いた。
新宿を歩いている間はまだ何が何だかわからなかったが、帰宅するサラリーマンと一緒に電車に詰め込まれ、半強制的に動けなくなると逆に落ち着いて物事を考えられるようになった。
あんなふうに反応されて、柾もいい気はしなかっただろう。ああいう場所は確かに初めてだったが、何をするかは事前に聞いていたわけだし、もしかしたら傷つけてしまったかもしれない。
時間は昨日よりだいぶ早く、まだ午後七時を回ったばかりだった。
誠意を示すためにも、もう一度お金を払ってステージを見て帰るつもりだった。柾と直接話すのは難しいかもしれないが、そうであれば受付の男に伝言を頼もう。
心を落ち着かせるために大きく息を吸って、自動ドアの前に立つ。
だが、ドアは開かなかった。
(あれ?)
昨日、いつの間にかカバンに突っ込んでいたフライヤーには、この「T/C Show & Lounge」のオープンは午後七時からだと書いてあった。もう一度時計を確かめたが、やはり七時は過ぎている。立ち位置がおかしいのかと前後や左右にずれてみたりしたが、ドアはぴたりと閉まったままだ。
(臨時休業かな)
そのとき、ドアの向こうから声が聞こえた。
「もうやってられるか! こんなこと!」
明らかな怒気を帯びた声に柊太郎はとっさに身構え、ドアから離れた。
ほとんど間を空けずに、若い男が駆け出してきた。男の勢いは相当なもので、かなり距離をとっていたはずの柊太郎に思いきりぶつかった。
「うわっ!」
腹のあたりに冷たい感触が広がる。男が持っていたコーヒーのカップから、冷めたコーヒーが柊太郎のシャツにぶちまけられたのだ。
白い生地に黒い染みができた。
「……んだよ!」
男は自分よりひとまわり以上背の高い柊太郎に面食らった様子を見せつつも、すぐに気を持ち直したらしく睨みつけてくる。
「どけよ! ったく、どいつもこいつもうすらでかくて邪魔なんだよ!」
男は柊太郎の胸を突き飛ばすと、交差点のほうに走っていった。柊太郎はわずかによろけたものの、男の力はそれほど強くなく、すぐに体勢を戻した。
腹が立つというよりも、びっくりした。いきなり飛び出してきてコーヒーを掛けられた上、うすらでかい呼ばわりされて突き飛ばされるとは。
嵐が過ぎ去るのを眺めるように、柊太郎は交差点を渡って小さくなっていく男の後ろ姿を見送った。
「おい、大丈夫か」
後ろから聞き覚えのある声がした。振り返ると柾だった。
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