ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第9話>
<第9話>
「あ……」
柊太郎の動きが止まる。会いたいと思っていた人ではあったが、さすがにいきなりすぎて言葉が出てこない。
「あれ、お前、昨日もいたよな?」
口をぱくぱくさせていると、柾が尋ねてきた。
声は出せないままに、こくりと頷く。
「今日も観に来たのか……って、うわっ」
すべて質問し終わる前に、柾は柊太郎のシャツにコーヒーが派手にぶちまけられていたことに気づいた。
「さっきぶつかった時にやられたのか」
もう一度、こくりと頷く。
柾はひとつ舌打ちすると、「そのままだと染みになるな。こっち来い」と柊太郎の腕を掴んで、建物の中に引っぱり入れた。「あの野郎、最後まで迷惑かけやがって」などとぶつぶつこぼしながら、奥へとぐいぐい連れていく。受付には昨日の男はいなかった。
柾は今日はTシャツに膝下丈の短パンと、ごくごくラフな、というより普通の格好をしていた。これが日常着なのだろう。だとしたら今夜はステージはないのだろうか。
だが、フロアにはあちこち照明が灯されており、営業の準備はすでに整っているように見える。昨日見たダンサーたちも、服装は柾同様にラフだったが、ステージの周囲に集まっていた。
誰もが腕を組んだり、煙草を吸ったりしながら、険しい顔つきをしている。明らかに剣呑としていた。
(何かあったのかな)
疑問に感じたが、尋ねられそうな空気でも、尋ねられる関係でもない。
柊太郎と柾はフロアのトイレに入った。うろたえる柊太郎に、大きめの洗面台を親指で指しながら柾は言う。
「そういう染みはすぐに洗ったほうがいい。ここで洗って、服が乾くまで店にいろ。金は取らないから」
「は、はい」
柊太郎が返事をすると、柾はトイレを出て行った。
何が何だかわからないが、とにかく言われた通りにシャツを洗う。
(おかしなことになったなぁ)
染みになった部分は水だけではうまく落ちなかったので、そこにあったハンドソープを使わせてもらうと、だいぶきれいになった。
店にいてもいいというのなら、柾と受付の男に謝るという目的は頃合いを見て達成させられそうだった。だが、さっきの緊迫感に満ちた空気は何だったのだろう。今はそんなことができる状態ではないようにも思えた。
シャツをよく絞って手に持ち、上半身裸のままトイレを出る。
「…………!」
そこに広がっていた光景を目にして、柊太郎は息をのんだ。
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