ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第10話>
<第10話>
柾と、昨日柾の前に踊ったダンサーがステージを背にして睨み合っていた。
相手は顔立ちの彫りの深さからして、白人とのハーフかクォーターのようだ。背中まで伸ばした髪をいくつもの編み込みにしている。
彼は女性のような容貌を活かして、セクシーでエキゾチックなダンスを踊っていた。柊太郎の記憶と知識が正しければ、そこにはベリーダンスという民族舞踊の動きも取り入れられていた。
「どうするんだよ、また新人つぶしやがって!」
編み込み男は、美女のような顔とは裏腹に口が悪かった。
「やる気のない奴を出してショーのクオリティを下げるよりましだ。しばらくはあいつの分も俺が何とかする」
傍目でも熱くなっているのがわかる編み込み男とは対照的に、柾は冷静だった。
その態度がまた編み込み男の怒りに火をつけたようだ。
「いくらお前がうまくてもなぁ、新人を期待してる客だっているんだよ!」
「その新人がゴミみたいな奴だったら逆効果だろうが」
「ゴミって、お前なぁ!」
柾の鼻ほどの背丈しかない編み込み男が柾の胸倉を掴む。
「ミシェル、やめろ!」
周囲のダンサーたちが止めに入る。
「……とにかく、出て行ってしまったものは仕方がない」
落ち着いた声がしたので、ダンサーたちと同様に柊太郎もそちらを向くと、ステージからは少し離れたところに一人の男性が立っていた。中年に差し掛かろうという年に見えたが、色白のきれいな顔をしている。
男はつかつかと革靴の音を響かせて、ダンサーたちに近づいた。年からいっても、柔らかそうな質感のスーツをきちんと着こなしているのを見ても、彼自身はダンサーではないだろう。
男が近づくと、柾も、ミシェルと呼ばれた男も一歩ずつ引いた。他のダンサーたちも一斉に退(すさ)ったところを見ると、このチームの中で相当強い発言力を持っているようだ。
「イズミさん、でも……」
ミシェルが不満を顔の全パーツに漲らせて男性を見返す。
男性はミシェルをちらりと見やったが、結局は無視して号令をかけた。
「もう開店時間が過ぎている。全員、急いで準備しろ」
それぞれ持ち場があるのか、ダンサーたちは別々に散っていった。
柾に顎で指示されて、柊太郎は昨日と同じ場所……バーカウンター席に座った。シャツはバーテンに、カウンター奥の、酒のストックや備品を収納する小さなスペースに干してもらった。
開店自体は午後七時からだが、ショーが始まるのは八時からだとフライヤーには書いてあった。ショーは一日二回あり、八時の次は十時だ。
柊太郎は今度は現金でオレンジジュースを買った。
外で待たされていたのか、客が一度に数人まとめて入ってきた。上半身裸の姿に好奇の視線を注がれるのは恥ずかしいが、仕方がない。
ステージではしばらく何も起こらなさそうだった。ダンサーたちの幾人かはボーイのような働きをしている。
柊太郎はショーフロアからバースペースを抜け、受付に足を運んだ。
「すみません」
そこにいたのが昨日と同じ人物であることを確かめると、横から声を掛けた。
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