ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第13話>
<第13回>
「じゃあな」
柾はバーカウンターの椅子を立つと、手を上げて去って行こうとした。その後ろ姿を柊太郎は「待って下さい」と呼び止めた。
柾が柊太郎に対してわざわざ「あまり来るな」と戒めてくれたのは、若すぎる柊太郎への単なる心配からだろう。しかし、であれば、今後来たとしても柊太郎は年下の危なっかしい客としてしか見られないに違いない。
だが、ダンサーと客では距離を埋められなかったとしても、ダンサーとダンサーならどうだろう。
「あの、今、人を募集しているんですか?」
「ん?」
ついさっき出て行った「新人候補」。枠はひとつ余っているはずだ。
「俺もここでやってみたいです。未経験ですけど、入れてもらえませんか」
柊太郎の申し出に、柾はすぐに訝しむような表情をした。
「それ、いきなりすぎるだろ」
「う……」
「思いつきで始められて、飽きたからって止めますなんてことになったら、こっちとしても迷惑なんでな」
柾の言うことは正しかった。
そもそも「柾に客以上の存在として見られたいから」なんて理由で始めようとするのは、本気でやっている柾や他のダンサーたちに対しても失礼だろう。
ここで柊太郎は、「すみません、先走りすぎました」と前言を撤回するべきだった。
だが、どうしてもその言葉が出てこない。
いつもの物わかりのいい自分はどこにいってしまったのだろう。
柊太郎はもう一度、
「やってみたいんです。お願いします」
と頭を下げた。
柾はしばし、頭を下げたままの柊太郎を眺めていたが、少しして溜息とともに切り出した。
「じゃあ、とりあえずまずは一ヶ月、ショーを何度か見てもう一度よく考えろ。その間の入場料金は半額にしてやるから。お前のガタイはダンサーとしてはなかなか映えそうだから、簡単に門前払いにするのも惜しい。新人候補の候補ってところだ」
要するにもっと時間をかけて考えろということで、順序としておかしなところは何もない、というより何か始めようとするなら当たり前だった。加えて、その間の入場料金は半額というのはかなりの優遇だ。
バスケは止めてしまったが、バスケのために体を鍛えてきたことが思わぬチャンスにつながった。
「あ、ありがとうございます!」
柊太郎はもう一度深々と頭を下げた。声が大きかったのか、何人かの客やスタッフがこちらを向く。
「あ、まだ早いから」
頭を下げた柊太郎の肩に、ポンと手が置かれた。首を傾げながら顔を上げると、柾は何かたくらみのありそうな笑みを浮かべていた。
本能が、何かよくないことが起こると告げてくる。
「その前に、もうひとつ別のテストもしよう」
「テスト?」
「そう、テストだ。見込みのない奴にわざわざ手をかけるほど馬鹿馬鹿しいことはない」
「……何をするんですか?」
おずおずと尋ねた柊太郎の顎を、柾はいきなり掴む。
上を向かせて、自分の顔を思いきり近づけた。息の熱さがわかるぐらいの距離だった。
「お前、男と寝たことあるか?」
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