ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第19話>
<第19話>
柊太郎は、運動神経は悪くないほうだった。それどころかそこそこいい自信があったが、いざダンスの練習を始めてみると柾には怒鳴られっぱなしだった。
身体能力自体は決して低くはないのだが、ダンスに絶対に必要なリズム感が欠けているのだ。
幼い頃に楽器の演奏をしたり、音楽を頻繁に聞いていればそう苦労することではないらしいのだが、どちらの経験も柊太郎にはない。ダンスやその他の運動は未経験だったてまりが何とかやってこられたのは、昔、ヴァイオリンを習っていたからだろうと本人が言っていた。
最初に習ったのは、すべてのダンスの基本といわれるジャズダンスだった。
「T/C Show & Lounge」のステージは、奥の壁の板を外すと鏡になっていて、ダンサーたちはいつもそこに向かい合って練習していた。柊太郎も鏡を見ながら、隣の柾と同じように動こうとしたが、ぎこちない動作でついていくのが精一杯で、気がつくと柾は次のテンポに進んでいる。一曲終わる頃には、今、何をしているのかよくわからなくなっていることも多かった。
それでも、営業終了後は誰よりも遅くまで残って練習した。寮ではシャワーから上がるたびにてまりと湿布を張り合った。学生生活に加え、ボーイとしての仕事もこなさなければいけない中では楽でなかったが、柾に愛想を尽かされたくない。
もともと凝り性で、なかなか結果の出ない地道な努力を重ねることが決して嫌いではない性格も幸いした。自分の才能は何かができることではなく、何かができないことに対して、つまらないだとかいやだとは思わないことだと柊太郎は自負している。中学・高校時代、他の部員が呆れるほど、なかなか入らない3ポイントシュートの練習を重ねた記憶がよみがえる。あのときもつらかったが、いやではなかった。
地道な努力を厭わない点では、てまりも同じだった。だがてまりはもともとそういう気質というよりは、何か理由があってそうしているようだった。
その理由というのを、柊太郎はある休みの日、一緒に部屋の掃除をした時にたまたま聞いた。
きっかけはてまりの名前について尋ねたことだった。てまりの名前は源氏名かと思っていたのだが、郵便物などからすると本名のようで、何となく由来が気になっていた。
「珍しいよな、てまりって名前。何か由来があるのか?」
部屋の真ん中にテーブルを壁に立てかけ、床を拭きながら何気なく尋ねた。てまりは年上のうえ先輩でもあったが、そう扱われることを嫌ったので、敬語は早々に止めている。
布団を干し、部屋の中に戻ってきたてまりが一瞬、体を竦ませたように止まった。
ほんのわずかだが、空気が歪んだのが感じられた。
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