ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第20話>
<第20話>
タイミングにも質問内容にも特に深い意図はなく、ずっとぼんやり考えていたことをたまたまその時に思い出したという程度に過ぎなかった。
何かまずかっただろうかと少し不安になりながら、柊太郎はてまりを見上げる。
てまりはその場にぺたんと腰を下ろし、
「三段階の中から選んで」
と、唐突に指を三本立てた。
「いろんな説明の仕方ができるようになったんだ。ハードモード、ノーマルモード、イージーモードのどれがいい?」
わけがわからなかったが、悪戯っぽい表情を湛えてこちらを覗き込んでくるてまりは目だけは笑っていなくて、助けを求めているようにも見えた。
聞くなら徹底的なほうがいい気がした。
「……ハードモード」
答えると、てまりはきゃははと不自然に高い笑い声をあげた。
「柊ちゃんってやっぱり、柾さんに食らいついてるだけのことはあるよね」
食らいつくという表現に、またあのときのことを思い返しそうになったが、今はそんな場合ではないと頭の外へ追いやる。
「えっとね、僕のお父さん、頭おかしかったの」
さらりと言われたら噴き出すのが礼儀かとも思ったが、ハードということはたぶんそうしてはいけないのだろう。別に笑いたいわけでもなかったが、奥歯に力を入れる。
「お父さんは若いかわいい男の子が大好きでね、僕が生まれたときも、手の中に入れてかわいがることのできるような子になるように、てまりってつけたんだって」
「ごめん、もういいよ」
柊太郎は広げていた雑巾を手のひらでぎゅっと握った。実の父親に幼い体を弄ばれる少年が脳裏に描き出される。その少年の顔がてまりと重なるのが怖くて、横にいるてまりを見られない。
「まぁ、柊ちゃんの考えてることはたぶん正解だよ。でも僕ね、ほーんのちょっとだけど、超・一ミリぐらいだけど、お父さんに感謝しているところもあるんだ。まわりまわって由井さんに会えたからね」
由井さん、という名前には聞き覚えがある。確か、てまりか誰かが口にしていた。
「柊ちゃんには由井さんのこと、ちゃんと話してなかったよね。僕、いろいろ耐えられなくなって家を飛び出して、高校も中退して、住み込みバイトを転々として、んで十八歳になったときに体売ろうと思って二丁目に来たの。最初は適当にいろんな人と寝てたんだけど、ある日出会っちゃったんだよね~、由井さんと」
てまりは肩から提げた黒猫のポシェットがその由井さんであるかのようにぐっと抱きしめ、大げさな仕草で頬ずりをする。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。