ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第21話>
<第21回>
「僕を和泉さんに紹介してくれたのは由井さんなんだ。由井さんには最初、お客さんとして何度か会ってたんだけど、なんか僕あぶなっかしかったみたいで、そのうち誰かにこっぴどく騙されて臓器とか売らされそうだから、まだ若いんだしこっちで頑張ってみたらどうだって」
てまりは言った。
「よくやる気になったな。練習とか見るからに大変そうだし、ていうか実際大変だし。俺はずーっとバスケやってたからそういうのには慣れてるけど、てまりは体育会の経験ないんだろ」
「だってもー、僕はその時にはすっかり由井さんに恋に落ちていたからね。アナタのいうことなら何でも聞きますどこまでもついていきますって感じ。僕が頑張らなかったら、紹介してくれた由井さんの顔を潰すことにもなるし」
バスケを引き合いに出したが、練習の内容や量も、レギュラー争いの厳しさもこちらのほうが上かもしれない。そんなところにしがみついているぐらいなのだから、よほど由井さんという人が好きなのだろう。
「じゃあ由井さんも鼻が高いだろうな。お前の実力って、俺が入った時から見ても伸びてるし、そのうち主力ダンサーになれると思うよ」
柊太郎は本気でそう考えていた。
てまりは身体的に恵まれているわけでもなければ、取り立てて運動神経がいいわけでもない。だが努力ではどうやっても手に入れることはできない、生まれながらの華がある。じわじわと伸びていく実力がいずれその要素をさらに輝かせ、そう遠くない将来、てまりを唯一無二のダンサーにするだろう。
それに比べると自分はどうだろうか。身体的、運動能力的に他と比べて多少有利だといっても、あくまでも多少に過ぎない。それに柾と練習していると、運動能力も大したものではないと感じてしまう。
振り付けもなかなか覚えられずに柾に怒られることが多く、ひょっとして自覚していなかっただけで、自分はじつは物覚えが悪かったのではないかと不安にもなった。
「僕からしてみれば、柊ちゃんのほうがずーっと才能も実力もあるように見えるけどね。なんたって柾さんがわざわざ育ててるぐらいだし」
「そんなことないよ」
柊太郎は思わず俯いた。柾が怒鳴りつける顔が浮かんでくる。
「柾さんももしかしたら、そろそろ見限ろうとしてるんじゃないかな」
実際、「やめちまえ」だの、「これ以上やってできないのなら出ていけ」だのと、柊太郎は柾に容赦なく罵られてきた。地道な努力を続けるのが苦ではないといっても、そういうことをいわれて平然とし続けているのは難しい。
しゅんとしてしまった柊太郎を見て、てまりが小さく噴き出す。
「ずいぶん一緒にいるのに、柊ちゃんは柾さんのこと、まだあんまりわかってないんだね」
「な、何がだよ」
「柾さんにしょっちゅう怒られてることを気にしてるんでしょ? あの人、口は悪いけど、それでもへこたれない子を求めてるんだ。職人気質っていうか、頑固オヤジっぽいというか、古風なところがあるんだよ。だからむしろ見込みがあるってこと。本当にヤバくなったら逆に何も言わなくなるよ」
「……そうなのか、な」
素直によかったとは思ったが、柾の鬼のような形相を思い出すと少々複雑な気分にもなる。
「そうそう、柊ちゃんって意外と鈍いんだから。さ、掃除の続きしよ」
てまりに同情していた自分が、いつの間にか励まされる立場になっていた。立ち上がったてまりが差し出した手を、柊太郎は素直に取った
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