ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第23話>
<第23話>
真綿で首を絞められるよう、というのはこういうことをいうのだろう。
怒鳴られたり、罵られたりするほうがまだましだった。
これまでのように柾を手本にして踊るのがうまくできなかったり、課題として出された曲でのダンスの完成度が甘かったときなど、今までであれば声を張り上げられていたのが、氷の塊を内側に仕込んだような冷たい目で睨まれるだけだ。
それさえもだんだん素っ気なくなり、そのうち一瞥だけになった。
とはいえ、柊太郎の感情とは関係なく時間は進むし、進む以上は練習を続けなくてはならない。呑気に不安がってばかりはいられなかった。針の蓆に座らされるような気分ではあったが、だからといって逃げ出すわけにはいかない。
大体、「しっかりやれ」と励ましてくれたのは他ならぬ柾だ。
これまで以上に柊太郎は練習に力を入れた。寝る時間を削って練習に当て、学校の行き帰りなどの空き時間にはタブレットにダウンロードした柾や他のダンサーたちの映像を見て研究をする。
が、それも柊太郎の一人相撲だったのかもしれない。
あるとき、柊太郎が鏡を前にして踊っていると、隣に立って眺めていた柾が音楽を急に止めた。普段注意される時は大抵音楽はそのままだったから、何かいやな予感がした。
「やっぱりだめだ」
周囲の人々が、踊っていた者まで含めてぎょっとした面持ちで柊太郎たちのほうを見た。
柾の声は決して大きくはなかったし、音楽で聞こえにくくなっていたはずなのに、よく通った。
「練習を始めて三ヶ月になろうってのに、そのリズム感のなさは絶望的だな。ステージに出られてもうちの評判を落とすだけだから辞退しろ。自分じゃ言いにくいのなら、俺から話しておく。そもそも才能がないんだろうな。俺も時間の無駄だったのかもしれん」
「…………すいません」
とっさに柊太郎が口にできたのは、我ながら何か違うと思いはしたが謝罪の言葉だった。
すぐそこにいる柾がすぅっと遠ざかり、白い靄の中に溶けていくようだった。
異様な緊張を帯びてしまった雰囲気などそこにはないかのような自然な動作で、柾がフロアを出て行く。柊太郎はしばらく突っ立ったままでいた。
我に返ったのは、てまりが駆け寄ってきたときだ。一緒に練習していたてまりの先輩ダンサーも、その後ろで気遣わしげにこちらを窺っている。
無表情だった柊太郎に対し、てまりのほうが泣きそうな顔をしていた。
「あの、柊ちゃん……」
「いいんだ」
柊太郎はてまりを押しのけて、自分も出て行こうとした。ちょっと押しただけのつもりだったが、自覚なく強い力を入れてしまったらしく、てまりがよろける。
「ごめん」
呟きはしたが、振り向かなかった。柊太郎は皆の視線から逃れるようにしてフロアを後にした。
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