ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第28話>
<第28回>
ステージで踊るようになって二週間経った。毎日ステージに立たなければならない日々は最初こそ緊張したが、一週間もするとだいぶ慣れてきた。
柊太郎が躍ったのはごく初歩的なジャズダンスだった。だが柾仕込みの基礎がしっかりしていたのと、体格に恵まれていたおかげで、下手に小手先の技術を取り入れるよりもよほど見る者を惹きつけた。
和泉も褒めてくれたし、ミシェルも一度だけだったが楽屋で「まぁ、まずまずじゃないか」とコメントをくれた。ライバルの弟子ということで、普段柊太郎にも冷たく当たることも多いミシェルだ。これは相当な褒め言葉だと受け取っていいだろう。
やがて柊太郎を贔屓にする客もでき、ダンスが終わった後にはチップだと強引に札を握らせてくるような男も出てきた。プライベートダンスはまだうまくできなかったが、そのぎこちなさがいいという客もいた。ボーイの仕事がいやだったわけではないが、張り合いという面では比べものにならない。
本来なら、いよいよ毎日が楽しくなってきたと胸を弾ませる頃合いだっただろう。しかし、柊太郎はどうしてもそんなふうに感じることができなかった。
肝心の柾が、いまだに冷たいままなのだ。
いや、冷たいというのとは少し違う。指導は以前以上に親身にしてくれたし、怒鳴りつけることも、なくなるまではいかないまでも少なくなった。
しかしそれが、柊太郎にはどうにも他人行儀に思える。柾と自分との間に、硬く、冷たい壁が敷かれてしまったようだ。敷いたのはもちろん柾のほうである。
柾はダンスについてはこれまで以上に熱心に教えてくれたが、それ以外のことについてはほとんど何も喋らなくなった。喜怒哀楽を表に出すことも減った。それは、あえてそうしようと努めているようだった。柊太郎のダンスに関しては、褒めることも必要以上にけなすこともなく、ただ修正するべき点を淡々と指摘する。
公園で話してくれたことに関して、てまりからさらに詳しく話を聞こうとしたが、それ以上のことはてまりも知らないようだった。
何とも煮えきらない日々だった。見捨てられたわけではないが、それでも居心地が悪い。
しかし、柾にこの心情を何と伝えればいいのかもわからなかった。以前のように怒鳴りつけて下さいとでもいえばいいのか。
そんな中で、ひとつだけ心から喜べることがあった。
ある時、てまりが店に来ていた由井を紹介してくれた。
由井は少々着崩れ感のあるドブネズミ色のスーツを着た、小柄な中年男性だった。頭は薄くはないが、空気がとんでもなく薄い。てまりが思いを寄せているのだと聞かなければ、一度会っただけでは顔を覚えられなかっただろう。
一言でいえば、冴えなかった。
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