【連載小説】Rizu〜風俗嬢の恋〜<第16話>
<第15話より・・・・>
「理寿、今日車乗ってく?」
「ううん。まだ終電間に合うから、電車で帰る」
「そっか」
裕未香がちょっと悲しそうな顔をした。
さおりさんとまゆみさんも、同じ車に乗って帰るから。まゆみさんはともかく、さおりさんと折り合いの悪い裕未香は、ワゴンという密室の中で二十分近くも気詰まりな思いをすることに耐えられないらしい。
裕未香に申し訳なく思いつつ、素早く着替える。相模原の改札口の向こうで待っている塚原さんを思い浮かべて、早く行かなきゃと気持ちが急いていた。
<第16話>
「お疲れ様です」
お疲れ、とにっこり手を振る裕未香。
無視して鏡と睨めっこし、ファンデーションを塗り直しているさおりさん(あとは帰るだけのはずなのにどうしてこんなに熱心にメイクを直すんだろう、あたしと同じでこの後誰かと待ち合わせてるんだろうか)。
お疲れ様、とにっこりするまゆみさん。
まゆみさんはさおりさんと仲がいいけれど、古株で歳が近いってこと以外は、この二人、ほとんど共通点がない。見た目だって、ギャルっぽいさおりさんと違い、まゆみさんの髪色は黒に近くてメイクもナチュラルで、いやし系のお姉さんって感じだ。
お店ではいつもにこにこしているから、着替えている時に左腕に刃物で切ったような傷を何本か見つけた時は、びっくりした。じっと見てちゃいけないと思って、すぐに目を逸らしたけど。
世間のイメージ通り、風俗で働いている女の子には何かを抱えているように見える子が多い。
まゆみさんも実は、あたしや裕未香には想像できないような深い闇を笑顔の奥に隠しているのかもしれない。まゆみさんだけじゃない。あたしを睨みつけるさおりさんも、もちろん裕未香も。
4900円のハイヒールに足を突っ込んで、外に出る。
夏の初めの夜の空気はしっとり重くて、都会の夜空は深夜でもぼんやり赤く、薔薇色がかってる。
長野の空とは違う。
28分の終電にはまだ十分間に合うのに、いつのまにか早足になる。やっぱりハイヒールは痛い。お店の中では上ばきで足を楽にさせてたから、なおのことだ。
塚原さんの笑顔が瞼の裏でちらつく。乾いた優しい手の動きが身体の表面に蘇る。強い感情があたしを動かしていた。あたしを受け入れて、あたしを抱きしめて、あたしを甘やかして、あたしの傍にいて。
それが愛じゃないと知ってても、あたしは高いヒールによろめきながら、駅へと急ぐ。降り始めた小雨がアスファルトを濡らしていた。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。