ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第35話>
<第35回>
柾は顎をしゃくって、ひそかな恥辱を味わっている柊太郎に「何か」を命じた。
柊太郎が柾の視線を追うと、部屋の隅の小さな冷蔵庫に行き着いた。
VIPルームの客用に、おしぼりを冷やしておく冷蔵庫だ。立ち上がり、近づいていって、開けた。
三、四個取り出して一枚を広げて柾に渡す。残りは畳まれたままテーブルに並べておいた。タオルはどれもミントのすがすがしい香りがした。
高校のバスケ部の練習で、練習後の先輩たちに「タオルを持ってこい」と言われ、馬鹿正直に一枚だけ持っていった時に「お前は阿呆か!」と投げ返されたことがあった。
ここに何人汗をかいている奴がいるか見りゃわかるだろう。言われたことをただこなすんじゃなく、何が目的で言われているのか考えろ。
おそらく伊藤の「後処理」は一枚では足りないだろう。だから、いくつかまとめて取り出した。
柾は受け取った一枚で、まず伊藤の額を丁寧に拭いた。汗が滲んでいたのは、先ほどから柊太郎も気になっていた。
続いて精子をたっぷり受け止めたティッシュを離し、おしぼりを何枚か使い、だらりとしたものを包み込むようにして拭った。壊れ物を扱うような手さばきだ。
柾はティッシュを何のためらいもなく柊太郎に渡した。柊太郎としては当然手になどしたくない。が、受け取らないわけにはいかない。今度の柊太郎はゴミ箱代わりだ。アダルトグッズになったりゴミ箱になったり、見事な便利屋ぶりだと自嘲したくなる。
しばらくすると伊藤は落ち着いた様子でみずからトランクスを上げ、パンツのファスナーとベルトをもとに戻した。
「見苦しいところを見せてしまったね」
苦笑してはいるが、それでも品の良さは変わらない。柾も何ごともなかったかのように、姿勢を正している。
この場で動揺しているのは、最初から自分一人だけだったみたいだ。
「柾、次の回は大丈夫?」
「あと1時間は余裕があります。まだ中盤にもなっていませんから」
柾と伊藤は示し合せたように悠然とフルートグラスを口に運ぶ。普段ダンス前は絶対にアルコールを口にしない柾だが、今ばかりは特別なようだ。さすがに店でいちばん高い酒をむげにつっぱねるわけにはいかないのだろう。
「柊太郎くんも遠慮しないで」と伊藤に勧められ、柊太郎も改めてグラスを手にする。
「じゃあ柾、終わったらすぐに裏口に来て。いつもみたいに車を待たせておくから」
「わかりました。少し汗臭いのは勘弁して下さい」
「いつものことでしょう。それに僕はそういうほうが燃えるしね」
伊藤が冗談っぽく言って肩をすくませる。
アフターの相談をしていることは、柊太郎にもすぐにわかった。
アフターというのは客が相応の代金を払えば、終演後にダンサーを連れ出せるシステムだ。
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