ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第38話>
<第38話>
その夜、柾と伊藤に何があったのか、結局柊太郎にはわからないままだった。
翌日、普段通りに柾はやってきた。
何もかも普段通り。浮かれているような様子もなければ、逆に機嫌が悪そうでもない。
体に何か痕が残っていやしないかと思わず確認してしまったが、見える範囲ではそれも見つけられなかった。
昨夜、何があったんですか。何をしたんですか。
訊いたら答えてくれるだろうか。いや、きっと怒られて終わりだろう。だが、わからないでいるほうがまだましかもしれない。想像していたことが事実になったと知ってしまったら、きっともっとつらくなる。でも、でも……。
心の乱れは、練習に出た。
いつもよりもステップが遅れる。振りつけを間違える。挙句の果てにはジャンプのときに着地のタイミングを計り損ねて、派手に転んだ。
「お前、何やってんだ!」
柾に今にも殴られそうな勢いで怒鳴られる。一度だけではない。よく実際に殴られなかったものだと思ってしまうぐらい、何度も何度も怒鳴られた。
柾は理由はわからないものの、柊太郎に対して距離を置いていた。でありながら怒鳴らずにいられなかったというのは、よほど見かねたのだろう。
きちんと相手にしてもらえたこと自体は嬉しいが、こんなことでは喜べない。
だめだ。集中しなければ。そう思えば思うほど、気持ちが散漫になる。
「ああいう行為」をした後にやることなんて、かなりの高確率で「そういう行為」しかないとわかっている。伊藤がとびきりの上客である以上、看板ダンサーである柾はおそらくそれを断らないだろうとも容易に想像できる。
納得できないわけではない。
だが、理性が宥めても、感情は駄々をこね続ける。
「今日はもう、柊太郎は無理だな」
舞台を見ていた和泉がぽつりと言い放つ。和泉はよほどのことがない限り練習に口を出さないが、その代わり一旦放たれた言葉はいつも分厚い刃物のように言われた者を斬った。
「柾」
和泉は柊太郎ではなく柾に声を掛けた。
体調が悪いのか、他に何か理由があるのかはわからないが……柊太郎は夜まで休ませたほうがいいだろう」
「わかりました」
柾はうなずいた。無言で顎をしゃくり、柊太郎にフロアを出て行けと合図する。
「でも……」
柊太郎はすぐには従えなかった。
ここは素直に言うことを聞くべきなのか? 謝ればいいのか? 謝って済むような問題なのか? やる気を示すために、無理にでも踊り続ければいいのか?
どうしたらいいかわからず、その場で長身を持て余す。
「出ていけっつってんだよ!!」
ついに柾の雷が落ちた。柊太郎は逃げるようにしてフロアを後にした。皆の視線がつらかった。
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