ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第40話>
<第40話>
客席がざわついているのが、ステージの上からでもわかった。
それはそうだろう。明らかに曲とダンスのテンポが合っていない。合っていないだけでなく、そのダンスがあまりにも下手だ。
何も知らない素人を舞台に引っぱり上げたのかと思われてもおかしくないほど、柊太郎のダンスはキレを欠いていた。振りつけの間違いや決めの失敗は、客の目から見ても明らかだった。
客たちはテーブル席でひそひそと囁き合う。
――どうしてあんなの出すの。
――下手だよね。
――さっさと終わらせればいいのに。
厳しい言葉の切れ端が、音楽の合間を縫って柊太郎の耳にも届く。わかり合えたと思えていた音楽に、棘や牙が生えて自分を傷つけているようだ。
それでも何とか一曲目が終わった。続く二曲目を柊太郎は待った。失態を晒したとはいっても、途中で舞台から逃げ出すわけにはいかない。
しかし二曲目はなかなか流れなかった。音響係のミスだろうか。柊太郎は壁際にあるDJブースをさりげなく確認しようとした。
そのとき、舞台袖から名前を呼ばれた。
「柊太郎」
柾だった。
「一旦下がれ」
柾は小声で言って手招きする。音響係のほうを見やると、すでに柾とは話がついているらしく彼もこくりとうなずいた。
音楽が流れない以上はここで突っ立っていてもしょうがない。柊太郎は小走りで舞台の袖に隠れた。照明も落ちる。
――あれ? もう終わり?
――何だったの、今の。
客たちが眉をひそめる。
「後は俺が躍(や)る」
柾はすでにダンス用の衣装に着替えていた。
「これ以上、お前をステージに上げておくわけにはいかない」
「そんな……だけど……」
「お前は俺たちの看板に泥を塗るつもりか? 今の自分がどれほどひどい有様かわかっているのか?」
柾は怒鳴りこそしなかったが、その声色は同様の、いや、それ以上の怒りを帯びていた。怒りは熱さを通り越して冷えきっていた。そこに晒された柊太郎は鳥肌こそ立たないものの、皮膚や肉どころか骨まで凍りつくような錯覚に襲われた。
「寮で待機していろ。全部終わったら連絡する」
柾は柊太郎を睨みつけた。見つめられたところから青白く凍てつく炎があがりそうな強いまなざし。
「……わかりました」
柊太郎はもう、どうしたらいいのかわからなかった。
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