ブーティー・ギャング・ストリッパーズ<第47話>
<第47回>
ふと柾が止まった。
「ま、柾さん……?」
半ばあきらめかけていた柊太郎は、せめて痛みに耐えようとぎゅっと閉じていた瞼を開く。
そこには、悲しみと虚ろさを薄い膜のように纏った柾がいた。柊太郎は痛みも一瞬忘れて驚く。今まで柾からこんな印象を受けたことはない。こんな弱々しさと紙一重の印象を。
「どんなにひどいことをされても俺についてくる……お前はそう言ったな」
「……言いました」
あまりにも強かった刺激に、菊華の粘膜がどくん、どくんと脈打っているのを感じつつ、柊太郎は小さくうなずいて答える。柾は柊太郎の言動が不一致なのを責めようとしているのだろうか。だが、今の柾の醸し出す空気に、そういったとげとげしいものはなかった。
「痛いだろ? 男にこんなことされていやだろ? なぁ、俺のことを嫌いになれよ。なっちまえよ。ダンスに憧れたからって、律儀にどこまでもついてくる必要はない。今のレベルなら同じことをミシェルだって、たぶん俺より丁寧に教えてくれる」
柊太郎は黙りこんだ。
柾の言葉の意味が、血が巡るようにじわじわと体の中を駆けていく。
次に生じた感情は、自分でも意外だったが、怒りだった。
「ダンスに……じゃ……」
唸るように言いながら、さっきまで柾を押し返そうとしていた腕をすっと持ち上げる。首筋を抱いて、思いきり引き寄せた。
「ダンスにだけ憧れたんじゃないんです」
柾は、わかっていなかったのだ。柊太郎がどれほど柾のことを見つめてきたか。どれほど柾に追いつこうと、認められようとしていたか。どれほど柾に一喜一憂させられてきたか。どれほど柾のことを――好きだったか。
ただ単に、ダンスに憧れる小僧ぐらいにしか思っていなかったのだ。
だからこんなことで、柊太郎が柾を嫌いになると考えることができたのだ。
まったく、
「なんて鈍感なんですか」
力いっぱい抱いて、耳元で詰ってやる。先輩に言っていいことではなかったし、普段だったら絶対に言わなかっただろうが、今は、今だけは言わずにはいらなかった。
「俺は柾さんのことが……柾さん自身のことが好きなんです」
告白してしまってから、あ、と慌てる。怒りは柊太郎をやけっぱちにしていた。
だが、もう発してしまった言葉だ。今さら撤回はできないし、こうなったら撤回するつもりもなかった。
「お前……」
柾がきょとんとして柊太郎を見つめる。
「……それ、本当か?」
「本当ですよ! ほら!」
この人は本当にどこまで……。柊太郎はみずからわずかに腰を浮かせて、途中まで差し入れられた柾自身を手に取り、自分の中に招き入れようとした。痛いが、これがいちばんの証明になるだろう。
「うぅ……いたい……これで……わかってくれますか?」
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