泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第6話>
<第6話>
「他に聞きたいことはある?」
「今のところは、特に」
「じゃあ、こちらから言うね。これは新しく入る子みんなに言ってるんだけど」
短い間があった。
朝倉さんの鋭い目がわたしを覗きこむ。
緩みかけていた緊張の糸がまたピンと張った。
ボーイさんの『本日のご指名ご来店誠にありがとうございました!』という元気のいい声が聞こえてくる。
「君、売春と性的サービスの違いってわかる?」
「性的サービス……ですか?」
「うん。売春は、女子高生でもできる。セックスをしてお金をもらうだけ。そこにはプロとしての自覚も責任も伴わない。はっきり言って、遊びみたいなもんだ。対して性的サービスはちゃんとお仕事として成立していて、プロにしかできない行為のこと。プロがやることだから、そこには責任が発生してくる。さっき言ったように毎月ちゃんと検査をしてお客さんに病気を移さないとか、アウトが遅れて店や他の女の子に迷惑をかけないっていうのも、責任だ」
ずっと乾いた響きだった声が、急に潤ってくる。
プロ、という単語に込められた熱意に促されるように、はっきり頷いていた。自分の中の何かに火が灯るのを、感じた。
「売春も性的サービスも、やることは一見、同じ。でも意義がまったく違う。接客する女の子の気持ちも全然違う。お客さんにはその違いが驚くほど正確に伝わるものなんだ。手を抜けば必ず、見抜かれる。ただヤッてるだけなのか、それとも仕事としてプロとして、やってるのか」
「……」
「じゃあ、最後に聞くよ。本当にうちで働きたい?」
正面からまっすぐ切り込んでくるナイフの視線を、もう逸らさない。
緊張と不安で折れそうな心をジーンズの生地を握ってしっかり支えて、頭を下げた。
「よろしくお願いします」
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