泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第8話>
<第8話>
小学校時代6年間、背の順で並ばされる時はいつも一番前。一度ぐらい「前ならえ」で、ズバッと両手を前にやってみたかったのに、常に手は腰なのが悔しかった。
中学校では背を伸ばしたくてバスケ部に入るもまったく伸びず、ずっとベンチ要員だったっけ。
成長期が訪れないまま、結局148cmでハタチの誕生日を迎えてしまった。
朝倉さんがぷっと吹き出した。
「そんなことないし、すごい被害妄想だなぁ。何、もしかして気にしてるの? 背が低いの」
「そりゃ気にします。似合わない服がいっぱいあるし、未だに中学生に間違えられるし…」
「俺も年齢確認するまで、こりゃヤバイなって正直思ったよ。でも大丈夫、世の中にはいろんな趣味嗜好の人がいるからね。中には体重が100kgぐらいあるような人や、50才近いソープ嬢だっているんだから、うちの店じゃないけど。それに比べれば背が低いことぐらい、なんでもない。知依は若いし可愛らしいし、吉原に染まってなくて素人っぽくて、すごく需要があるはずだよ。絶対稼げる」
そんなわけで、わたしの源氏名は『知依』に決まってしまった。
とても自分とは思えない。
でも、違う名前がついたことでいよいよ新しい自分が生まれた気がした。
ローズガーデンにいる間は真面目が取り柄のおとなしい女の子は、ちょっとお休み。ここにいるのは、吉原で需要のある知依ちゃんなんだ。
その後は入店時の誓約書にサイン、捺印。まだ大学生のわたしは、ちゃんとしたハンコを持ってないけれど、100均で売っている三文判でいいらしい。
さらにお店のホームページに載せるプロフィールを朝倉さんと一緒に考え、お客さんたちに配る名刺(もちろん『知依』の名刺だ)のデザインを決め、次に来た時にプロフィール写真を撮るので、その打合せも…。なんとプロのカメラマンとヘアメイクがつくっていうから、モデルみたいな扱いに驚いた。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。