泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第17話>

2014-11-29 20:00 配信 / 閲覧回数 : 903 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Chii 泡のように消えていく… 連載小説


 

夜這いの宿

 

<第17回>

 

年齢より幼く見られるのには慣れている。

 

ほんと、こんなにもセクシーからかけ離れ入る20才も珍しい。そのくせよくソープで働く気になったものだ。我ながら、似合わな過ぎることをしている。

 

「竜希さんこそ、仕事は?」

 

「俺、今日は夜勤明け。今、2人で病院行って来てさ」

 

「そうだったんですね。順調ですか?」

 

「順調順調。そうだ由実、かずちゃんにお腹、触らせてやってよ」

 

「え、いいんですか」

 

まぁるくせり出した由実さんのワンピースのお腹は、昼過ぎの金色の日差しを浴びて神秘的で神々しくさえあって、簡単に触れちゃいけないものの気がした。それでも由実さんは快くいいよ、と言ってくれるので、わたしはおそるおそるお腹に手を伸ばす。

 

自分のお腹よりもずっと暖かくて、奥から小さな命の存在がどくどく主張していた。

 

力強い血液の流れを手のひらに感じる。喉の奥が熱くなるような感激に顔を上げて由実さんを見ると、由実さんは誇らしげに頷く。

 

それで、気づいてしまった。

 

わたしはこの人には勝てない。いくら思いを積み上げてきた期間が長いからって、関係ない。

 

完全な、敗北。

 

「おめでとうございます」

 

何を言ったらいいのかわからずにとりあえずそう言うと、由実さんはありがとうと微笑んだ。

 

あんまり穏やかな笑顔に、すべて見透かされてる気がした。

 

わたしが竜希さんを子どもの頃からずっと思っていたことも、竜希さんが結婚するって知って苦しんでることも。

 




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