泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第19話>
<第19話>
「竜希さん、なんかすっかり旦那さんっていうか、お父さんになっちゃいましたね」
2人肩を並べ、家の方向へ歩き出した道すがらそのことを言うと、竜希さんは「えー、そう?」と目を丸くする。
「うそー、どのへんが?」
「由実さんも生まれてくる赤ちゃんも、竜希さんにすごく愛されてるんだなって思いました」
「よせよー、かずちゃん。愛されてるんだなんて。照れるじゃんかぁ」
なんて背中をばしんと叩かれたら、一瞬触れたところが妙な熱を持つ。
ほんのり頬を赤らめて幸せそうに笑う竜希さんは、鈍感なのかバカなのか、その両方なのか、こんなに近くにいるわたしの気持ちにまったく気づいていない。
「かずちゃんは彼氏できないのー?」
「できないですよ。この通り、子どもっぽいし」
「ダメだよ、そんぐらいの歳のうちにちゃんと付き合っとかなきゃ。今はまだいいけど、まったく男を知らないまま誰も守ってくれない年齢になったら、コロッと悪い男に騙されるぜ」
「悪い男って、竜希さんみたいな?」
「そうそう。て、ちがーう!!」
また、背中ばしん。
竜希さんは悪い男だ。わたしにとっては、最悪だ。
愛おしいのに、愛おしいからこそ、腹が立つ。
昼下がりの住宅街は主婦の姿が多く、正面からそれぞれスリングに赤ちゃんを入れたお母さん2人組がおしゃべりしながら近づいてきて、それが2カ月後の由実さんの姿に見えて、思わず目を逸らした。
「かずちゃんは真面目過ぎなんだよ。勉強ばっかの優等生なんて、社会に出たら逆にやってけないぞー?」
「そんなに真面目でもないです」
「じゃあなんか最近、真面目じゃないことした?」
「この前初めてお酒、飲みました」
「お酒ってかずちゃん、もうハタチだろ? 合法なんだよ! やっぱ真面目だよー!」
ハタチになるまで本当にお酒を飲んだことがないと言うと、友だちにはびっくりされるし、少し引かれる。
真面目になりたいと思って真面目になったわけじゃないのに…。はみ出した生き方ができるほど、器用じゃないだけ。
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