泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第21話>

2014-12-03 20:00 配信 / 閲覧回数 : 929 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Chii 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第21話>

 

門のところで竜希さんと別れ家に入る。後ろ手でドアを閉めるなり長いため息が口を突いた。

 

今、このタイミングで竜希さんに会いたくなかった。竜希さんが結婚する人がどういう人かなんて知りたくなかった。

 

「何よ、玄関先でそんなにおっきいため息ついて」

 

トイレから出てきたお母さんがおでこに皴を寄せて言う。ジャーと勢いのいい水音。

 

「トイレの中まで聞こえてたわよ」

 

「嘘」

 

「研修で何か嫌な事でもあったの? ちゃんと、できそう?」

 

「それは大丈夫。少し疲れただけ」

 

ならいいけど、とおでこの皴が元に戻る。

 

わたしは受け継がなかった意志の強そうな目に見つめられて、急に今まで全然感じなかった後ろめたさに襲われる。

 

お母さんは今日わたしが何をしてきたのか、これから何をしようとしているのか、まったく知らない。デパートの惣菜売り場でバイトするからその研修を受けてきたって、適当にでっち上げた嘘を少しも疑わず信じている。

 

「お母さんこそ、パートは?」

 

「さっき帰ってきたところよ、今日はお昼までだから……。そうそう、竜希くん、来月から婚約者と一緒に暮らすらしいわねぇ。お腹もう、こんなおっきいんだってよ」

 

と、やたら嬉しそうに体の前で大きなお腹を作るように手を動かす。

 

そのままお茶淹れてあげるからとキッチンに連れていかれ、半ば強引にお母さんの長話に付き合わされるはめになる。その話さっき本人たちから直接聞いたとは、なんとなく言えなかった。

 

近所の奥様方との噂話と、韓流タレントの追っかけと、成果の出ないダイエットを生き甲斐に生きているようなお母さん。決して嫌いではないけれど、真似したいとは全然思わない。

 

 

 




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