泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第23話>

2014-12-05 20:00 配信 / 閲覧回数 : 914 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Chii 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第23話>

 

ようやく自分の部屋にたどり着くと、また深いため息が出る。

 

あーあ、何やってんだろう。ハタチにもなって、反抗期の中学生みたいにお母さんに当たって。

 

片づけなきゃいけないミニ・レポートがあるのは本当なので、ノートパソコンを開くけれど、全然はかどらない。5行だけ書いて諦めて上書き保存し、シャットダウンした。

 

お母さんが上がってきていないかどうか階段のほうに耳を澄ませながら、クローゼットを開けて冬物のコートのポケットに隠してある鍵を取り出す。この鍵は学習机の4段になっている引き出しの一番上、唯一鍵のかかる引き出しのもの。

 

中に入ってるのは小学生の頃に雑貨屋さんで買った古いアルバム、それだけ。小学生当時流行ってたキャラクターで今では全然見かけなくなった黄色い犬が、表紙で間抜けに微笑んでいる。

 

久しぶりに取り出すアルバムの表紙をめくる時、自然と動悸が早くなって深呼吸をしないといけなかった。

 

1ページ目には、幼稚園の頃の竜希さんとまだ1才とか2才とか、幼児よりは赤ちゃんという単語が似合うわたし。子ども用のクリームイエローの水着を肌に張り付かせ、庭のビニールプールに浸かっている。

 

スイカにかぶりついた竜希さんが片手でピースしていて、わたしは蛍光ピンクのビニールボール片手にぼんやり立っていた。ほんの子どもだけど目もとや口もとに注目すれば、この男の子が成長したらたしかに今の竜希さんの顔になるな、ってわかる。

 

もちろんちっとも覚えてないけれど、この頃からわたしは竜希さんを好きだったんだなって確信できる。ボールを持ったちっちゃな女の子は、カメラそっちのけで竜希さんを見ていた。

 

写真は年代順に並べてある。小学校の頃の竜希さん、中学校の頃の竜希さん、高校の竜希さん……。竜希さんだけが写っているのも、お兄ちゃんやお姉ちゃんが写り込んでいるのも、わたしと一緒のもある。

 

お隣同士で昔から家族ぐるみの付き合いだから、竜希さんのスナップ写真を集めるのはそんなに難しくなかった。ほとんどが子どもの頃のもので、大きくなって2人が疎遠になってからの写真が少ないのが、ちょっと寂しい。

 

 

 




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