泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第38話>
<第38回>
またきっと、と約束して成田さんと別れた。
初めてわたしの体をぎゅっとしてくれた男の人の後ろ姿をしっかり目に焼き付けながら、またきっと、と願う。
「知依、お疲れ。今日はもう、上がっていいぞ」
「え、でも、わたし今日、18時までだって……」
「あそこ、痛いだろ。もう仕事にならないんじゃないのか? 今日は」
声を潜めて耳もとで言われて、顔が真っ赤になった。処女じゃなくなったところでいきなり、あそこがどうこうという話が普通にできるわけじゃない。
「朝倉さんと相談したのよ、きっと知依ちゃんは、今まで本当に真面目に、真っ当な道から外れないで生きてきた子だろうからって。この仕事はどうしても働かなきゃいけない理由があるならまだしも、そうじゃないのならお勧めできない。わたしも朝倉さんも、そういう考えなのね。ましてや、初めての相手がお客さんだなんて……」
2人きりになった個室で、沙和さんに言われた。
沙和さんも朝倉さんも、わたしが処女だってちゃんと見抜いていたんだ。アンダーグラウンドな世界に生きる経験豊富な大人の目はごまかせない。
2人とも本当にいい大人だった。
風俗って、女の子を騙して働かせる、とてつもなく悪い人ばかりが仕切ってる世界だって思ってたし、実際そうなのかもしれない。
初めて面接に訪れた店で朝倉さんと沙和さんに出会えたのは、本当に幸運だったんだ。
「だから、新人研修をすることにした。うちでは原則的に、女の子の要望がない限り男性スタッフを台にした研修はしないことにしてるの。特に新人研修で、お店と女の子の間に信頼関係が出来上がってないうちは厳禁なのね。でもあえて2日間の研修期間を作ったのは、知依ちゃんの覚悟を試したかったから。生半可な気持ちでここに来たのなら、あれでネを上げるだろうなって、朝倉さんが言ってたわ」
「試されて……。だから朝倉さん、あんな厳しく」
「そうよ。でも、それだけじゃないの」
不思議な顔をしたわたしに沙和さんは笑いかける。上品に、優雅に、そして色っぽく。
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