泡のように消えていく…第三章~Amane~<第28話>
<第28話>
「さっきはすいませんでした」
2人で個室の後片付けをしながら、沙和さんに言った。
ローズガーデンでは後片付けは基本的にボーイさんの仕事だが、忙しい時は女の子もマットを洗ったりゴミをまとめたりしなきゃいけない。
21時を過ぎ、勤め帰りの人たちで店はピークを迎えていた。
ちょっとの間の後、沙和さんがこの人らしいやわらかな口調で聞く。
「すみれさんのこと、嫌いなの?」
「だって、腹、立つじゃないですか。偽善的で。こういう場所にああいう感情を持ち込むこと自体、すごく間違ってると思う」
「偽善、か。たしかにあの子の優しさは相手のためだけじゃなくて、自分のためっていうのも大きいかもね。それは、見てて感じる。でも……」
マットを洗う手を止めないまま沙和さんは続ける。
額にうっすら浮かぶ玉のような汗、そういうところもきれいだった。風俗だから働いてるのはある程度自分に自信のある子が多いし、きれいな子なんて掃いて捨てるほどいる。
でも、沙和さんの美しさは他の子とは一線を画している。
完璧に整ってるわけじゃないのに、吸い寄せられて魅入られて、そばにいるとホッとする。そういう種類の美しさは、ソープという世界には稀だ。
「でも、偽善だとしても、必要じゃないのかな。こういう業界って、みんな自分のことを隠しがちで必要な時になかなか他人を頼れないし、何もかも自己責任ってところがあるでしょう。いや、風俗だけじゃなくて、世の中全体がそうなってきてるかもしれないけれど……」
あたしだってわからないわけじゃない、あいつの言うことは基本的には間違ってないって。だからこそ腹が立つんだけど。正しさだって、使い方を間違ったら正しくない。理不尽かもしれないけど、そうなのだ。
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