泡のように消えていく…第四章〜Sumire〜<第1話>
<第1話>
〜2004年 園香〜
『こちら』から、『あちら』を見ることはできない。音で窺い知るだけ。
一時間半ほど前から雨が降っていた。
最初はぱらぱら遠慮がちに壁を叩くだけだったのが一気に強くなって、その後は単調なリズムで外の世界を濡らし続ける。
最初、この部屋に入った時に覚えた違和感の正体がずっと不明だったけど、今日、わかった。
ここには窓がない。
正確に言えば、窓はあるのに外が見えないようにされている。女の子の私物が無造作に並べてあるスチール製の棚の向こうが窓で、キティちゃんの柄が入った赤いカーテンで塞がれていた。よほど遮光性の強いカーテンなのか、それとも雨戸があるのか、外の光は部屋の中にちらりとも入ってこない。
それは、『こちら』と『あちら』が分厚い壁で隔てられていることの象徴のようで、わたしはもう光に満ちた『あちら』の住人じゃないってこと、少なくとも『こちら』にいる間は西原園香なんて女の子はどこにもいなくて、真面目でも成績優秀でもないただの琴乃なんだって思い知らされる。
「やべー、このポテチ528キロカロリーもするって! 全部食っちゃったし! また太る~」
「いいじゃん太れば。食って、太って、その巨乳もっと成長させなよ。せっかく巨乳キャラで売ってるんだからさー」
「言ってくれるねー。リミは自分が細いからって。うち、最近マジで腹ヤベーの。こないだも客に言われたし、もっとダイエットしたほうがいいよって。余計なお世話だっつうの」
なんて、黒のホルターネックから小麦色の胸をはみ出させながら言ってるのが桃花で、その隣でミルクたっぷりのミルクティー色の髪をコテでくるくる巻きつつ、口もしっかり動かしてるのがリミ。2人は仲がいいらしく、一時間前にそろって出勤してからずっとしゃべっている。
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