泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第2話>
<第2話>
ここは県内では数少ないホテル街のうちのひとつで、古い雑居ビルの1室を使って運営している女子高生限定の秘密デートクラブだ。
働いているのは全員本物の18才未満だから、当然、大っぴらに宣伝はしておらず、お客さんも会員制。どこからどうやってお客さんを呼んでくるのか不思議だけど、そこは独自の口コミのような宣伝システムがあって毎日大盛況なのだと、面接の時店長に言われた……のに。
「にしても今日、暇じゃねー? うち、もう帰りたくなってきた」
桃花とリミの会話がふっと途絶え、桃花が煙草の煙を吐き出しながら言う。
未成年しか出入りしないはずの待機室は当然のように煙草臭くて、お父さんもお母さんも喫煙の習慣がなく、周りに煙草を吸う友だちもいないわたしは、ちょっとキツい。
塞がれた窓の上で時を刻んでいるシンプルなデザインの壁時計は、既に19時を回っていた。もう、この部屋に3時間もいることになる。
まだ今日の接客はなし。このままじゃお茶を引くかもしれない。
親には夏休みいっぱいで辞めたコンビニのバイトを、今でも続けていることにしている。そうやって嘘をついて放課後に働いているわたしがここにいられるのは、学校が終わった16時から21時までの間と、土曜日の12時から21時までだけ。
普段はお嬢様系の私立高校に通う真面目っ子だから、21時になったら帰らなきゃいけない。桃花やリミはもっと遅くまでいるみたいだし、なかには学校に行ってなくて午後の早い時間から出勤してる子もいるけれど、働ける時間が短いわたしはその日予約が入ってなかったら、もう、アウトだ。
初日は3人、お客さんがついた。次の日はゼロで、待機保証といって一時間1500円×待機時間分のお手当だけをもらって帰った。
今日も今のところ、ゼロ。18才だってことにして先週まで働いていたキャバクラで出会った松木さんに、「もっと稼げるお仕事あるよ」とここを紹介された時は期待したけれど、過剰な期待は、この前のお茶っぴきで、穴があいた風船みたいにむなしくしぼんでしまった。
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