泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第4話>
<第4話>
「ねぇねー、琴乃ちゃんってさぁ、服、どこで買ってるのー?」
2人のおしゃべりから外れて1人で携帯をいじっているわたしに気を遣ってか、それとも単にひたすらリミと向かい合っているのに飽きたのか、桃花が人懐っこく話しかけてくる。ずいっとにじり寄られて、煙草と香水の入り混じったにおいが鼻腔を突いた。
同級生の子たちが放つ思春期独特の、制汗剤と体臭とシャンプーの香りが入り混じったにおいとは全然違う、まるきり夜の女のにおい。
「え? 服ですか……? このワンピースは、OLIVE des OLIVEですけど」
「マジー!? 珍しいー!! 清純派だね。うちらはエゴイストとか好きでさー。知ってる?」
「知ってますけど。このへんで買えます?」
「このへんじゃ買わないよー。渋谷まで行って買うの、渋谷のマルキュー」
「渋谷って。行くだけでめちゃめちゃ、お金かかりません?」
「かかるよー。だからここでバイトしてんじゃーん」
当たり前のように笑って言う桃花の唇は、蛍光灯の人工的な光の下で、男を誘う夜光虫のようにヌラヌラ妖しく光る。
最初は、キャバクラとかこういうお店で働く子って、みんな大変な事情を抱えてるんだろうって勝手に思ってた。
たしかに親がいなくて1人で生きていくために働かざるをえない子や、高校の学費を自分で稼いでるって子も中にはいたけれど、実際はこの子たちみたいに単に物欲を満たすためだけに体を売る子も少なくない。
わたしはどうなんだろう。
自分のためじゃなくて好きな人のために働いているつもりだけど、好きな人のために何かしたいって欲は、物欲とさして変わりないかもしれない。
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