泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第48話>
<第48話>
「なんで、こんなことしたの……? どうしてそんなひどいことできるの……?」
返事の代わりにまた深いため息が出る。
お願い、いつものハルくんに戻って。今の全部、嘘だって言って。
そんな願いを込めてわたしはハルくんに取りすがり、腕を握る。
「ねぇ、嘘なんでしょう? 今松木さんが言ったこと、全部嘘だよね!? 嘘って言って!?」
「……嘘じゃねーよ」
「どうして!? どうしてよぉ!! ハルくんのこと信じてたのに。大好きだったのにっ」
「うるせーよ!!」
乱暴に腕を振り払われる。
わたしが触ったところを汚いものがついたみたいに払う仕草をするきれいな顔は、まるで知らない誰かのよう。たしかに前から口の悪いところがあるとは思ってたけど、ハルくんの黒い部分がわたしに向けられるなんて、今の今までありえなかった。
「信じてただの、大好きだだだの、そんなのお前の勝手だろ? 誰が好きになってくれって頼んだ?」
「そんな……。ひどい」
「ひどいも何も、これが俺の仕事だし。お前、ウザかったよ。愛が重かったわマジで」
これは現実なのか、悪い夢を見てるんじゃないのか。
容赦ない言葉に全身が震えだす。耳はそれでもしっかり働いて、聞きたくない言葉を拾ってしまう。
「もうすぐ別の女ここ来るのに、離れたくないとか言ってまとわりついて。マジ、ありえねーわ。もうちょっとかわいけりゃサマになるんだけど、お前じゃ無理。ウザいだけ」
「そんな……。そんなにわたし、ブス……?」
「ブスだね。雰囲気暗いし重たいし。デートクラブでも全然、指名なかったんだって? 松木から聞いたよ。しょーがねよーな、その程度の顔じゃ」
またため息。
この人はわたしを弄んだばかりか、ちゃんと向き合うことさえ面倒くさがっている。わたしの存在はカードがなくてもお金を引き出せるATMみたいなもので、人間扱いされていない。
「お前、真面目に予備校行けよ。勉強しろよ」
「……」
「ブスはそういう生き方しかできねーんだよ。ま、早いうちにわかってよかったよな」
「……ッ!!」
声にならない声が出て、踵を返してキッチンに入った。
流しの隣の洗いものが入っている籠から包丁を引っ張り出す。
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