泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第50話>

2015-05-08 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,047 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sumire 泡のように消えていく… 連載


 

JESSIE

 

<第50話>

 

「死にたきゃ死ねよ。お前みたいなブスがどうなろうと、別に構わねぇからさ。がっかりしたか? 止めてくれるとか思った?」

 

「……」

 

「死んだら教えてくれ。この部屋俺の名義じゃねーし。会社のヤツがてきとーに処分してくれるからさ。すげぇだろ、裏社会。て、死んだら教えられねぇか。ははは」

 

終わりに「あー、煙草吸いてー」と付け加え、ベランダの窓を開ける。

 

それがハルくんの最後の言葉になった。

 

くるり。包丁の向きを変える。

 

大好きだった背中に飛びつく代わりに、包丁を突き立てた。

 

刃がぶすりと埋まる。

 

あっけない。

 

ハルくんが痛みで叫び声を上げ、振り返る。人間の喉から出たなんて信じられないような、まさに断末魔の獣の声だった。

 

あぁ、ハルくん、やっとわたしを見てくれたね。

 

恐怖と驚きと痛みで血走った目を見返しながら、今度は胸に突き刺した。

 

何のためらいもなかった。

 

またぎゃああ、と悲鳴が上がる。

 

ただならぬ叫び声を聞きつけた近所の人が警察を呼び、背後から取り押さえられるまで、わたしはハルくんのいたるところを刺し続けた。

 

あれほど愛したきれいな顔を、自らの手で壊した。

 

たくさんたくさん、キスして抱きしめてくれた体が、たちまち真っ赤な肉の塊に変わっていく。返り血と涙で視界が赤く歪んでいった。

 




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