泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第51話>
<第51話>
<2014年 すみれ>
大人になって施設を出て、女の子だって煙草を吸うのが当たり前な夜の世界へ戻ってきて、何年も経つ。
けど未だに煙草が苦手で、畳2枚分ぐらいの狭い喫煙室の中は入った途端に眩暈がした。
でも雨音さんとわたしが2人きりでちゃんと語り合える場所は、今はここしかない。
壁の向こうには雨音さんに睨まれ、すっかりビビってしまったみひろちゃんたちがひそひそしゃべっている気配がする。
「で、どうなったの?」
10年前のことを話している間、一度も眉をひそめたり顔色を変えたりしなかった雨音さんが、言う。
この人は過去にどんな経験をしてきたんだろう。わたしの壮絶な過去が明らかになったところで、まったく驚いた様子を見せない。
「お嬢様高校に通う真面目な女の子がむごい事件を起こしたからって、すごい大きく報道されたらしくて……。わたしはよく知らないけど。世間と完全に隔離されてたし」
「あんまりニュースとか見ないから、あたしもあんま知らない。聞いたことはあるよ。でも未成年だったんだし、数年で出られたんでしょ?」
「うん、だいぶ長い間女子少年院にいた。でもそんな事件を起こしたんだもの、罪を償ったからって、元通りってわけにはいかないよね。親との関係は壊れて、友だちも全部なくした。家族ごと隣の県に引っ越して、わたしも地元にはいれなかった。それで家出同然で東京に出てきて、夜の世界ってわけ。親とは一度も連絡取ってない」
なんてことない話のように、雨音さんがふぅん、と鼻を鳴らす。
冷たい態度のおかげで、かえって話しやすい。
「少年法があっても、インターネットで本名も顔写真も出回っちゃうんだもの。昼間の世界で生きていくのは、無理だと思った。いくら10年たってるとはいえ、どこでバレるかわからないじゃない?」
「うららにあんなに干渉したのは、そういう経験があったから?」
「そうね。ただ、いい人ぶってたわけじゃないのよ」
彼氏のことを語るうららちゃんは、懐かしい目をしていた。10年前のあの、たしかに幸せだった日々、鏡に映った目と同じ。
うららちゃんを救うことは、あの頃の自分を救うことだった。
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