泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第53話>
<第53話>
「なんか、よくわかんないけど。でも、あんたがやったのは全部、あんたが望んでしたことなんじゃないの?」
「そうかもね」
17歳のわたしが、普通で平和で穏やかな日常を捨ててまで、欲しかったもの。
それは、生きてる、という実感。
周りからいつのまにか貼られてしまったいい子のラベルをかなぐり捨て、自由に生きることだ。でも……。
「自由って、孤独ね」
「ばーか。そんなの当たり前でしょーが。みんな自由だし、みんな孤独なんだよ。まさか、人を殺したからって自分が特別だとか思ってんじゃないでしょうね。あんたが何を背負ってたって、特別じゃないよ。誰だってそんな裏切られ方したら、殺したくなるほど腹立つに決まってるでしょ。そこで本当に殺しちゃうかどうかって、ひょっとしたら紙きれ一枚ぐらいの違いかもしんないじゃん。あんたはあんたが思ってるより、普通のヤツだよ」
いつもの憎まれ口が、睨みつける丸い目が、今は少しだけ温かい。
わたしはあの頃と何も変わっていない。
大人として上手に生きる術を身に着けただけで、わたしの本質はハルくんを刺したあの時のまま。わたしを恐ろしい罪に駆り立てたあの怪物は、今もわたしの中に潜んでいる。
それでも素顔の自分と、怪物を飼っている自分と、目を背けないでいてくれる人が、一人でもいたら……。たとえばそれが、彼氏とかじゃなくても……。
「ありがとう、雨音さん」
「やめてよ、気持ち悪い」
雨音さんが照れたように顔を背けた。盛大に吐き出されるタバコの煙に我慢できなくなって、短く咳をした。
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