泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第1話>
<第1話>
止まっているように見える雲は風に流され、少しずつ確実にその形を変えていくし、水は一か所に留まることはなく、川に海に水蒸気に雨にと、名前を変えて地球上を巡る。だいいち、人間だって、他のどんな生き物だって、生まれた瞬間からゆっくりと死に向かって進んでいるんだ。
言ってみれば当たり前のことだけど、3月は特にその当たり前を実感させられる。
進学とか就職とか転職とか配置換えとか、あらゆる形の新生活をしょっちゅう耳にするから。自分が立ち止まっていることなんてお構いなしに、周りは猛スピードで変化していって、それは風俗だって例外じゃない。
「沙和さん。わたし今日でローズガーデン、辞めます。今までありがとうございました」
2人きりの待機室、既に私服に着替えた知依ちゃんがきっちり腰から折り曲げるお辞儀をする。
平日で、ラストまでの女の子は、わたしと知依ちゃんしかいない日だった。
実家暮らしの知依ちゃんはいつも早くに帰るけれど、月に数回は大学の友だちとの集まりに行くことにして、ラストまで出るんだそうだ。それは、毎回遅い時間にやってくる、指名のお客さんにつくため……。
朝倉さんの目は確かで、ドンと押された太鼓判通り、知依ちゃんは売れた。
入店から3カ月であっという間にナンバースリーになったし、出勤すればほぼ予約で埋まってしまう。
ここで働いたことで、うぶな雰囲気はそのままキレイになって、中学生みたいに固かった体のラインも柔らかくなった。それはまるで固い蕾がほころぶよう。色気が出てきて、いよいよこれからだと思ってたのに……。
「どうして!? そんな、今日って。ずいぶん急じゃない……。まさか、親にバレたとか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけれど……」
ハンガーにぶら下げたチャイナドレスをカーテンレールにかけながら口ごもる。
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