泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第3話>
<第3話>
「どれくらいになるっけ。入ってから」
「えっと、最初に来たの10月だったから。もうちょっとで半年でした」
「だいぶお金、貯まったんじゃない?」
「はい。ここで作った貯金で来月からアパート、借りるんです。今引っ越しの準備中で、家の中ダンボールのジャングルみたいですよ。あれをまた片づけなきゃいけないって思うと、ぞっとする」
「そういう準備って大変だけど、楽しいのよね。おめでとう、初1人暮らし」
少し寂しそうに知依ちゃんは微笑む。
10代からハードな生き方をしてきた結果、なるべくして風俗嬢になった子とはまったく違う雰囲気の知依ちゃんだから、ずっと気にかかってた。
問いただすわけにはいかないけれど、こんなに真面目な普通の子が、なんで風俗の中でも究極と言えるソープにいきなりやってきてしまったんだろう。
1人暮らしの資金を貯めるために風俗で働くっていうのも、解せない。自立はこの年頃の女の子にはよくある欲求だけど、それだけで体を売れるものなのか。何か事情があるにしても、例えば複雑な家庭のあれこれとか、風俗の女の子にありがちな影は感じられない。
ただひとつ間違いないのは、この子が本気で傷ついていること。大事に守ってきた処女をお金のために差し出すには、それ相応の理由が必要なはずだから。
「部屋借りるのって、あんなにかかるんですね。敷金とか礼金とか、家具を揃えるのとか。全部足すとかなりの額になっちゃいました」
なんて苦笑いする知依ちゃんと一緒に、私物籠の片付けを手伝う。
もう他の店で働く気はないらしいから、かなりのものがゴミ箱行きの運命を辿る。未使用のウエットトラストや海綿はありがたくいただいた。
「残念だな、辞めるの。わたし、沙和さんみたいになりたかったのに」
最初に会った頃よりもふっくら艶が出て、グロスもよく似合う唇が呟く。
初めての風俗で見事に売れて、サクッと目標の額を稼いでサクッと辞める。理想的な働き方だし、結果的には良かったんだろうけれど、それでも考えてしまう。
この子は本当はうちで働くべきじゃなかったんじゃないか、と。
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