泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第4話>
<第4話>
知依ちゃんの1日目の研修が終わった後、朝倉さんはこんなことを言い出した。
沙和は、どう思う? また来るかな、知依。俺、やる気出させて、良かったのかな」
7年もいるし、ここ6年ずっとナンバーワンだから、『女の子』の枠を超えて朝倉さんと経営上の問題について話し合ったりもするけれど、さすがにこんな相談を持ち掛けられるのは珍しい。
確かな信念に支えられているこの人を迷わせるくらい、そしてわたしも迷ってしまうくらい、知依ちゃんは真面目で無知で純粋な子だ。
その真面目な子が約5カ月のソープ嬢生活の後、辞めることを残念だと言っている。風俗に、ローズガーデンに、そしてわたしに、愛着を持ってくれている。
「わたしみたいに、って? もしかしてわたしとナンバーワン争いしたかった?」
冗談めかして言うと、知依ちゃんは小さく頭を揺らして笑った。しばらく前から染めている紅茶色の髪にはゆるくウェーブがかかっている。
「いえ、そんな。わたしなんてとても……。でも、ただ、沙和さんみたいに立派な風俗嬢にわたしもなりたくって。せめて、学生でいる間は続けたかったな」
「目標を達成したなら、いつまでもいる必要はないんじゃない? この仕事って全然悪い仕事だとはわたしは思わないけれど、長くやる仕事じゃないもの。ある意味、魅力的な職場ではあるけれど」
頑張れば頑張るほど、ダイレクトにお金という結果に反映され、お客さんからも店からも感謝してもらえる風俗の仕事は、充実感を生み出してくれる。もちろん、売れなければより自分のことを嫌いになってしまうけど、見事に売れて、その瞬間だけ得られるセックスよりも遥かに強い快感に取りつかれてしまえば最後、風俗から離れられなくなる。
一生懸命仕事に取り組むのは、指名を取るのは、素晴らしいことだ。
でも人生が風俗一色になってしまったら。他のものが何も見えなくなってしまったら……。
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