泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第5話>
<第5話>
精神的支えを風俗のみに頼ったために、やがて堕ちて行った女の子も何人も見てきたけれど、わたしが知依ちゃんをこの世界に引き入れるかどうか迷ったのは、知依ちゃん自身がそうなる危険性を秘めているように見えたからだ。単に、真面目な子だからってだけじゃなく。
「この仕事ってずっとやれる仕事かっていうと、難しいし。他の仕事に就いた時、ここで得たスキルを生かすこともできない。風俗で働いた過去は一生胸に秘めていくしかないんだから、働きながら次の生き方を見つけるのがベストだと思ってるの」
半ば、自分に言い聞かせるように言った。
最初は人のために働き始めて、それが8年前、自分のためになって。あの時ばらばらに砕けてしまった心は、未だ癒えていない。
わたしにはまだ、風俗が必要なんだ。
「わたしからしたら、知依ちゃんのほうが立派に見えるな」
「そんな、なんで……? わたしが」
「だって、この仕事をしても自分を見失わないで済んだから。働いてるうちに自分を見失っちゃう子、すごく多いんだもの」
つけ睫毛で飾った目をしばらく泳がせた後、ためらいがちな声が返ってくる。
「それって……、もしかして沙和さんは、自分を見失ってるんですか?」
「そうね。幸いまだ、見失うってところまではいってないけれど。迷いがある、かな」
ローズガーデンを卒業すること、風俗嬢を辞めて次のステップへ行くこと。何度も考えた。
たとえば独立して、自分でデリヘルを経営するのはどうだろう、とか。
でも、そんなふうに風俗の世界で生き続けるのは、何か違う気がする。
だからって昼間の世界でやりたいことがあるわけじゃない。そもそも37歳にもなって、昼間の世界で生きていく術を何ひとつ持っていないわたしに、迷うほどの選択肢なんてない。
「それでも……。わたしにとって、沙和さんは憧れなんです。強いから」
「強くなんかないわよ。強いように見せているだけ」
きっと、この世には本当に強い人なんてきわめて少数しか存在しなくて、ほとんどの人は自分の弱さを認めて受け入れて、それに折り合いをつけて生きているんじゃないのか。
知依ちゃんは何度か目をしばたたかせた後、にっこりした。
「だとしたら、それが沙和さんにとっての強さなんじゃないですか?」
「……ありがとう」
先輩として、ひと回り以上も年上の女の人として、陰ながら支えて見守って励ましてきたつもりだった。
でも最後は、自分のほうが励まされてしまう。
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