泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第8話>
<第8回>
3年前までは他の多くのソープランドと同様、女の子たちはみんなライバルで、一本でも多く指名を取ろうとしのぎを削っていた。他の子の技術を無料で教われるなんて、ありえないことだったんだ。
競い合うのは構わない。でも競争が過ぎれば汚いやり方で他人を蹴落とす人だって出てくるし、それは結局店のためにならない。傾きかけたローズガーデンにいたわたしたちにとって、ライバルは他の女の子じゃなく、他のお店だ。
周りと比べ過ぎずにみんなで伸びて行こうという意識があれば、その子が他のお店に移ってしまえばその子ごと移動してしまうお客さんじゃなくて、ローズガーデン自体のファンを増やすことに繋がる。それこそが店を救うキーワードだったのに、上はそうは思ってくれない。
「感謝してるなら、もっと考えてよ、『生』がどれだけ危険かって」
「わかってるさ。でも俺は一介のサラリーマン店長で雇われの身なんだ、上が決めた方針を変える権利はない」
「会議の時に提案してみたら?」
「そんなの、すぐに却下されるさ」
「なんとかしようって、思ってもくれないのね」
だんだん口調がきつくなってしまう。朝倉さんに向けるわたしの目はきっと恨みとか軽蔑とかが滲んでて、いつもクールを決め込んでいる朝倉さんの視線が困ったように泳ぐ。
「なんとかしようにも、なんともできないだろ。俺だってなんとかしたいとは思ってる」
「思ってるなら、行動してよ? 店長でしょ? 朝倉さんは、わたしやみんながエイズや梅毒になってもいいっていうの?」
「いいわけないだろう!!」
急に声を荒げられ、反射的に肩がびくついた。
でもきつい語調とは真逆に、わたしを見つめる鋭い瞳は傷ついて沈んでて、自分自身を突き刺していた。感情がふつふつ泡立っていた心が、すうっと冷えていく。
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