泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第9話>
<第9話>
朝倉さんが振り返って、知依ちゃんが中にいる面接室のドアを見た。
「今の、知依ちゃんに聞こえたかもね」
「俺、5分って言ったよな」
話を中途半端で終わらせたまま、朝倉さんは長い脚をさっさと動かして面接室に入っていく。
一部始終を見ていたんだろう、困惑混じりの愛想笑いを浮かべたボーイが、送りの車の用意ができたと呼ぶ。
お昼からロングコースを3本もこなしたせいで、ずっしり重い体を車のシートに預けていると、後悔と朝倉さんへの申し訳なさが頭をぐるぐる巡る。
なんとかしたくてなんともできないのは、『生』の危険性をわかっていてみんなを救えないのは、わたしだって同じ。朝倉さんはサラリーマン店長の不自由な立場で、思うようには動けない身で、それでも精いっぱいやってくれてるのに。
わたしは今でこそナンバーワンだけど、初めから指名が取れたわけじゃなかった。
ローズガーデンは、AVやヘルスの仕事を経てやってきた初めてのソープで、AVに出てたといっても有名な女優じゃなかったし、ヘルスの時のお客さんもうまく引っ張れなくて、最初のうちは苦労した。思うように指名が取れなくて焦るわたしに寄り添ってくれたのが、その時はまだ副店長だった朝倉さん。
誰にも言えなかった話を親身に聞いてくれて、どうすればいいか一緒に考えてくれたし、これは誰にも言えないけれど、店の外で2人きりの『研修』に付き合ってもらったこともある。マットを置いてあるラブホテルを使って、朝倉さんの体にローションを塗りたくり、交わった。朝倉さんはいっぱいに膨らんで欲しくてたまらないと泣いて訴える本能に抗うように、終始険しい顔をし続けていた。
朝倉さんに支えられたお陰で、サエないソープ嬢だったわたしは諦めずにすんだ。
入店後半年から挽回しだし、1年後にはナンバーワンに上り詰めた。朝倉さんはすべてわたしの頑張りの結果で自分は何にもしてないと言い張るけれど、朝倉さんがいなかったら間違いなく店を替えていただろうし、仕事に対する姿勢だって今とは全然違っていたはずだ。
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