泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第11話>

2015-05-22 20:00 配信 / 閲覧回数 : 838 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sawa 泡のように消えていく… 連載小説


 

バストが大きく

 

<第11話>

 

「どう? 結婚生活は」

 

「結婚生活っていうか、水揚げ生活?」

 

水揚げ。遊郭の時代から使われる言葉で、お客さんに拾ってもらい、結婚することを差す。

 

お客さんとの結婚は不幸な結果を招きやすい。

 

店に通っている以上は女の子もお客さんとして接するし、そんな女の子を本気で好きになったとしても、それはあくまで風俗嬢としての仮の姿で、本当のその人じゃない。だから結婚して家庭を作ったところで、完全に妻として接するわけにはいかず、どこかで風俗嬢の仮面を脱げずにいる……。

 

そういう関係を作った結果、長続きせず崩れていった例を少なからず知っているから、杏里が店を辞めて一番の上客だったお客さんとの結婚を決めた時、素直に喜べなかった。

 

その時杏里のお腹には既に赤ちゃんもいた。

 

もう5年も前のことだ。

 

「旦那さ、また店、通ってるんだよね」

 

杏里は砂糖を入れた紅茶のカップをスプーンでかき混ぜながら、カラリとした口調で言う。あの頃からきっちり5年分老けてしまった口もとに、諦めた後のような笑みが浮かんでいる。

 

「堀之内の高級店だって。オキニ、できちゃったみたい」

 

「そっか……」

 

何を言ったらいいのかわからなくてとりあえずそう言うと、杏里はふっと乾いたため息をついた。

 

「まぁ、不倫とかじゃなくて、お金のやり取りがある分まだマシなのかもしれないし。そりゃ自分の時と同じだから、怖いけどね」

 

杏里が結婚したのは15才も年上の男の人で、実業家。杏里に出会う前に既に、バツ2だったという。子どもは杏里が産んだ2人を除いても、3人いる。

 

結婚を一生添い遂げるものとは考えてなくて、気持ちのままくっついては離れ、くっついては離れを繰り返してしまう人。

 

杏里だってわかってなかったわけじゃないのに。

 

 




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