泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第11話>
<第11話>
「どう? 結婚生活は」
「結婚生活っていうか、水揚げ生活?」
水揚げ。遊郭の時代から使われる言葉で、お客さんに拾ってもらい、結婚することを差す。
お客さんとの結婚は不幸な結果を招きやすい。
店に通っている以上は女の子もお客さんとして接するし、そんな女の子を本気で好きになったとしても、それはあくまで風俗嬢としての仮の姿で、本当のその人じゃない。だから結婚して家庭を作ったところで、完全に妻として接するわけにはいかず、どこかで風俗嬢の仮面を脱げずにいる……。
そういう関係を作った結果、長続きせず崩れていった例を少なからず知っているから、杏里が店を辞めて一番の上客だったお客さんとの結婚を決めた時、素直に喜べなかった。
その時杏里のお腹には既に赤ちゃんもいた。
もう5年も前のことだ。
「旦那さ、また店、通ってるんだよね」
杏里は砂糖を入れた紅茶のカップをスプーンでかき混ぜながら、カラリとした口調で言う。あの頃からきっちり5年分老けてしまった口もとに、諦めた後のような笑みが浮かんでいる。
「堀之内の高級店だって。オキニ、できちゃったみたい」
「そっか……」
何を言ったらいいのかわからなくてとりあえずそう言うと、杏里はふっと乾いたため息をついた。
「まぁ、不倫とかじゃなくて、お金のやり取りがある分まだマシなのかもしれないし。そりゃ自分の時と同じだから、怖いけどね」
杏里が結婚したのは15才も年上の男の人で、実業家。杏里に出会う前に既に、バツ2だったという。子どもは杏里が産んだ2人を除いても、3人いる。
結婚を一生添い遂げるものとは考えてなくて、気持ちのままくっついては離れ、くっついては離れを繰り返してしまう人。
杏里だってわかってなかったわけじゃないのに。
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