泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第20話>
<第20回>
「わたし、ずっと誰かに守ってほしいって思ってたの」
ふいに、うららちゃんが言った。
全然似てないのに横顔が杏里を思い出させる。お腹の中の命がその存在感を増したことで、うららちゃんも母親の顔をするようになった。
「でもそれ、嘘だった。本当にわたしが欲しかったのは、守ってくれる存在じゃなくて、自分が守る存在だったんです」
お腹に当てられる柔らかそうな白い手。まもなく生まれ出る命に、うららちゃんは支えられている。守るものがあれば、自分を守る力も得られるのかもしれない。
「これからは、絶対、大丈夫。守るものがあると、自然と頑張れるようになるんだ」
「……ねぇ。もしかして、あんた、泣いてるの?」
わざとらしく呆れ顔をする雨音さんの隣で、もしかしなくてもすみれさんがぼろぼろ泣いている。
「だって、もう。なんか、感極まっちゃって……。うららちゃん、大人になったんだなって」
「何それー。まさか自分のお陰とか思っちゃってんのー?」
「思ってません! またもう、雨音さんは。わたしたちは何もしてないの、うららちゃん自身がこんなに頑張ったんじゃない!」
「あれ、沙和さんも泣いてるんですか?」
うららちゃんがびっくりした顔をして、すみれさんと雨音さんの目が一斉にこちらを見る。頬に流れた涙の筋を見られるのが恥ずかしくて、照れ笑いが出た。
「ちょっと、グッときちゃった。うららちゃんのことも、あるけど。お店で出会ってこんなふうに仲良くなれるなんて、いいなって」
どうしても互いに競い合う職場だから、同じお店の女の子同士、仲良くしたいと思っても難しい。人として接しようとしても、頭の片隅にはこの子と自分とどちらがきれいかとか指名が多いかとか、比べる気持ちがある。人のことなんて気にしないで自分を磨くことが一番大切だと、わかっていても。
わたしだって、杏里みたいに親友になれた子だけじゃない。嫌な目に遭ったことだって裏切られたことだってある。
それでも人を信じることを諦めたくなかった。自分は自分と言える強さに、憧れた。
誰かと手を取り合うのに、本当は場所なんて関係ないはずだから。
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