泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第23話>
<第23回>
「あたし、昔覚せい剤にハマってて」
唐突な告白だった。すみれさんが小さく息を呑む。
「やめて2年以上経つけど、今だにジャンキーで。薬が欲しくて欲しくてしょうがない体と、毎日戦ってた。彼はそのへんの事情も知ってて、受け入れてくれたんです」
「いい彼氏なのね」
雨音さんが頷く。
風俗で働いていると、合法違法問わずドラッグに溺れてる人や、昔溺れていた人に出会うことは珍しくない。
まさか雨音さんがそうだったとは想像してなかったけど。
「今、病院にも通ってます。ドラッグとかいろんな依存症の専門病院で、医者なんてどうせ、人の過去ほじくり出す嫌な奴ばっかだって思ってたけど、いい主治医に当たったお陰でなんとか通い続けていられる。その病院も彼が選んでくれて」
「大事にしなきゃね。その人のこと」
「はい。彼がいなかったら、本気で自分を変えようなんて思わなかったな」
正直、雨音さんが羨ましくてしょうがなかった。
愛していて愛されてて、そんな人がすぐ傍にいる幸せ。
自分がどれだけラッキーかって、雨音さんは気づいているんだろうか。
「あーあ。雨音さんも知依ちゃんも大前進して、いい春迎えちゃってるなぁ。わたしだけ置いてけぼりかなぁ」
「そのまま置いてかれてればいいじゃない」
雨音さんの毒舌は無視して、すみれさんがあ、と嬉しそうな声を出す。また風が吹いて、舞い落ちる梅の花びらが一枚、すみれさんの長い髪に引っかかった。
「あ、でもそういえばひとつだけ、前進した! 今度、親に会うことになって」
わたしも雨音さんも、すみれさんの過去を知っている。あんなに店じゅうで噂になっていたら、知らないでいるほうが難しい。
しばらくは接客中もお客さんからその話をされたくらいだ。
『ねぇねぇ、すみれちゃんって子人殺したことがあるんだって? どんな子なの? ナンバーワンなんだから知ってるでしょ?』って具合に……。対応に困ったぐらいだ。
あれはちょっとした騒動だった。
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