泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第26話>
<第26回>
「知依ちゃんって、辞めたの?」
マッサージオイル代わりにローションを使い、マットに寝転がった脇田さんのふくらはぎを揉みほぐしていたら、そう聞かれた。
毎月いっぺん、月の中頃にやってくる脇田さんは、必ずマッサージを頼む。
わたしはマッサージにはまったく素人で、前に店にいた元エステティシャンの子からちょっと教わっただけなんだけれど、脇田さんはいつもむくみが良くなったと喜んでくれる。
「はい、少し前に」
「残念だったなぁ、あの子、お気に入りだったのに。2回しか指名してなかったけどね。また会いたかったよー」
もう6年も店に通っている脇田さんは、2週間にいっぺんローズガーデンを利用する。月中に来る時はわたし、月初めに来る時はいろんな女の子の中から1人、写真指名。
なのでいつのまにか、わたしの前で『あの子はかわいい』『あの子はあんまり、良くない』だなんて、批評するのが習慣になってしまっている。
「一時期どっさり入ってきた新人さんも、だいぶ辞めちゃったよねぇ」
「そうですね。こういう店だからやっぱり、入れ替わりは激しいし」
年末の繁忙期が過ぎると、ぱたんと店は暇になる。そこでリピーターを確保し、稼ぎ続けられるかどうかは本人次第。
最初からいい成績が出せるとは限らないし、わたしみたいに後から挽回する人だっている。とはいえ、なかなか諦めずにひとつの店で頑張ろうとは思えないものだ。
合う店は人それぞれだし、やりがい云々よりも稼ぐための仕事なんだから、稼げない店に長くいる合理的な理由もない。朝倉さんもわたしもそのへんはよくわかっているので、辞めたいと相談されたところで引き止めたりはしない。
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