泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第28話>
<第28回>
心も体も満たされた笑顔で、脇田さんは手を振ってくれる。
「ありがとう、気持ち良かった。また来月ね!」
気合の入ったお礼で見送るボーイさんたちを間に挟み、わたしは手を振り返す。脇田さんは名残惜しそうに何度も振り返りながら、ローズガーデンを去っていく。
ここは薔薇が咲き乱れる庭園のような夢の国。
一歩外に出れば思うようにいかない現実が待っている。ここにいる間だけでも満ち足りて過ごしてもらえるよう、わたしたちは全身でお客さんを愛し、夢の国の住人を演じる。
お金で買うセックスなんてむなしいだけだと言う人もいるだろう。けれどお客さんの本物の笑顔を見れるたび、風俗で遊ぶこと、働くことにプラスの意味はあるのだと思う。
「沙和、10分後に面接室へ来てくれ」
朝倉さんに声をかけられる。
ずっと茶色かった髪は、最近真っ黒に染め変えられていた。ずいぶん大胆なイメチェンだ。
「10分後?」
「あぁ。個室で待っててくれたらいい」
「わかった。わたし、個室じゃなくて待機室にいてもいい? 私物取りに行きたいの」
平日の夕方でそんなに忙しい時間帯でもないから、待機室は人が多かった。3月は人が動く時期。年末以来の新人ラッシュのせいで半分以上の顔に馴染みがない。
「お疲れ様でーす」
自分から挨拶をしても返ってくる声はまばら。そんなことでいちいち腹は立たないけど、やっぱり寂しい。
最近、講習会の出席者も減っていた。みんなで伸びていきたいという意識で始めた講習会だけれど、その精神は今どきの若い風俗嬢とは分かち合えないのかもしれない。
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